説明を受けているときは、分かっています。
うなずいているし、理解もしている。「大丈夫です」と答えます。
問題は、そのあとです。手を動かし始めると、分からなくなる。
「あれ、どっちだったか」「そこは聞いていない気がする」。さっきまで分かっていたはずのことが、抜けています。
私は発達障害の当事者です。口頭の指示が入らないことが、長く仕事の障害になっていました。
そして、「メモを取ればいい」と言われ続けました。 そのとおりです。ただ、それができませんでした。
この記事は、なぜできなかったのかと、いまどうしているかの記録です。

この記事に書くこと
- メモが取れなかった理由
- 聞き直せなくなる仕組み
- いま実際にやっていること
- 相手に頼めること
1. メモが取れませんでした
1-1. 聞きながら書くと、聞き逃す
これが、いちばんの理由です。
書いている数秒のあいだに、話が進んでいます。
書き終わって顔を上げると、次の話になっている。 書いた内容と、いま話されている内容が、繋がりません。
聞くことと、書くことを、同時にできませんでした。
1-2. 書くほうに気を取られる
何を書くかを考えている間、聞いていません。
「これは書いたほうがいいか」「どう書けばいいか」。その判断に頭を使うと、耳が止まります。
1-3. 書いたメモが、あとで読めない
急いで書いたメモは、後から読むと意味が分かりません。
単語だけが並んでいて、それが何を指していたか思い出せない。
結局、メモを見ても分からないという状態になります。
1-4. 「メモを取れ」は、対処になっていなかった
言われたことは、正しいと思います。
ただ、メモを取れないことが問題なのに、メモを取れと言われても解決しません。
そして、取れないのは自分の努力不足だと思っていました。
2. 聞き直せなくなる
もう一つ、大きな問題があります。
2-1. 一度目は、聞けます
分からなければ聞けばいい。 そのとおりです。
一度目は、聞けます。
2-2. 二度目が、聞けない
同じことを、もう一度聞く。
そのときの相手の反応が、怖い。
「さっき言いましたよね」と言われなくても、一瞬の間や、表情で分かります。
2-3. 聞かずに進めて、間違える
聞けないので、推測で進めます。
そして、間違ったものを作ります。
間違えると、次はもっと聞きにくくなります。 「この人は説明しても分からない」と思われている気がして。
2-4. 悪循環になる

聞けない → 間違える → もっと聞けなくなる。
この循環に入ると、抜け出せません。
能力の問題ではなく、この循環が問題でした。そこに気づくまで、時間がかかりました。
3. いまやっていること
自分でできることから書きます。
3-1. 聞くときは、書かない
発想を変えました。
聞いているあいだは、聞くことに集中します。 メモを取りません。
そして、終わってから、思い出して書きます。
同時にできないなら、分ければいい。 それだけの話でしたが、長く気づきませんでした。
3-2. 直後に、5分だけ時間をもらう
説明が終わったら、すぐには動きません。
その場で、5分だけ書き出します。 記憶が新しいうちに。
この5分があるかどうかで、まったく違います。
3-3. 書いたものを、その場で見せる
「こういう理解で合っていますか」と確認します。
言葉で復唱するより、書いたものを見せるほうが確実でした。
口頭で復唱すると、自分の言葉に置き換わってしまい、ずれに気づけません。
書いたものなら、相手が読んで、違う箇所を指摘してくれます。
3-4. 手順の形に書き直す
説明されたままの順番だと、あとで使えません。
「1. ◯◯する 2. △△する」という形に、自分で書き直します。
やる順番に並べ替えるのが要点です。説明は、必ずしもやる順に話されていません。
3-5. 分からなかった箇所に、印をつける
「ここは分かっていない」と、メモの中に残しておきます。
1. ◯◯を確認する
2. △△に登録する
※どの項目を入れるか、聞いていない ← あとで確認
3. □□に連絡する 分からない箇所が特定できていると、聞きやすくなります。
「もう一度説明してください」ではなく、「2の項目だけ教えてください」と聞ける。これなら、聞けます。
4. 相手に頼めること
自分の工夫だけでは、限界があります。
4-1. 「あとで文章でいただけますか」
いちばん効く一言です。
その場では聞いて、あとで文章で送ってもらう。
「口頭だと聞き漏らすことがあるので、要点だけ文章でいただけると助かります」
理由を添えると、通りやすいと感じています。
4-2. 「できません」ではなく「助かります」
伝え方の話です。
「口頭では覚えられません」と言うと、能力の話になります。
「文章でいただけると助かります」と言うと、要望になります。
同じことを言っていても、受け取られ方が違います。
4-3. 全部を説明しなくていい
診断名を出す必要はありません。
具体的な要望として伝えれば、それで足ります。 相手も、どうすればいいか分かります。
伝えるかどうかは、そのつど選べます。
5. いまの働き方
在宅で作業をするようになって、この問題はかなり減りました。
やり取りが、ほとんど文字だからです。
読み返せます。時間をかけて理解できます。そして、聞き直したことが記録に残りません。
前のメッセージを、自分でもう一度読むだけなので。
内容が難しかったのではなく、入り口が合っていなかった。 そう分かってから、選び方が変わりました。
6. それでも、口頭の場面はあります
完全になくなるわけではありません。
会議、電話、対面での打ち合わせ。そういう場面は残ります。
そのときは、前述の工夫をします。 聞くときは書かない、直後に5分もらう、書いたものを見せる。
完璧にはなりません。 ただ、以前より間違いが減りました。
まとめ
- メモが取れなかったのは、聞くことと書くことを同時にできないから
- 書いている数秒で、話が進んでしまう
- 急いで書いたメモは、あとで読んでも意味が分からない
- 二度目が聞けない。 そして推測で進めて、間違える
- 聞けない→間違える→もっと聞けないという循環が問題だった
- 対処:聞くときは書かない。 終わってから思い出して書く
- 直後に5分もらう。 記憶が新しいうちに書き出す
- 書いたものを見せて確認する。 口頭の復唱よりずれに気づける
- やる順番に並べ替える。 説明の順番のままでは使えない
- 分からない箇所に印をつける。 特定できていると聞きやすい
- 相手には「文章でいただけると助かります」と要望として伝える
- 「できません」ではなく「助かります」
長いあいだ、自分の理解力が足りないのだと思っていました。
そうではなく、入り口が合っていなかっただけでした。
そこが分かってから、対処のしようが出てきました。


