パソコンの前に座って、自分が作ったものが、知らない誰かに使われているのを見たとき、少し変な気持ちになりました。
会社勤めが続かなかった人間が、作ったものです。
私は発達障害の当事者で、いまは就労継続支援A型の事業所に通いながら、空いた時間でWordPressのプラグインを作っています。公開しているものが4つあって、そのうちの1つは有料版も売っています。
この記事は、そこに至るまでの記録です。
うまくいった話だけを書くつもりはありません。続かなかったこと、失敗したこと、いまも解決していないことも書きます。そのほうが、同じような状況にいる方には役に立つと思うので。

この記事に書くこと
- 会社勤めが続かなかった理由
- なぜ「作る」ことは続いたのか
- 公開するまでに詰まったこと
- いまの働き方
- 同じ状況の方へ
1. 「向いている」と言われても
先に、この記事で書かないことを書いておきます。
「発達障害の人はプログラミングに向いている」という話は、書きません。
調べると、そう書いてある記事がたくさん出てきます。集中力がある、細かい作業が得意、論理的な思考が向いている。
そういう面はあるのかもしれません。 ただ、私の実感とは少し違います。
向いていたから続いたのではなく、続けられる条件が、たまたま揃っていたというほうが近い。そして、その条件は人によって違います。
だから、一般論ではなく、自分の場合はこうだったという話だけを書きます。
2. 会社では続きませんでした
2-1. 何が難しかったか
具体的に書きます。
予定が変わることが、いちばん苦手でした。
その日にやると決めていた作業が、朝の時点で別のものに変わる。それだけで、その日は使い物にならなくなります。
「臨機応変に」と言われても、頭の中の組み立て直しに、人の何倍も時間がかかります。
そして、口頭での指示です。
聞いた瞬間は分かったつもりでも、手を動かし始めると分からなくなる。 聞き直すと、「さっき言いましたよね」という空気になる。それが怖くて、聞けなくなる。
結果として、間違ったものを作ります。
2-2. 一つひとつは、小さいことです
どれも、大したことではないように見えます。
「メモを取ればいい」「確認すればいい」。そのとおりです。そして、そう言われ続けました。
ただ、毎日それが起きます。 積み重なると、消耗します。
そして、消耗すると、もっとできなくなります。
2-3. 辞めた理由は、能力ではなかった
仕事の内容ができなかったわけではありません。
時間をかければ、できました。ただ、その「時間をかければ」が、許される環境ではなかったというだけです。
これに気づくまで、自分は能力が足りないのだと思っていました。
3. なぜ、作ることは続いたのか
3-1. 予定を自分で決められる
いちばん大きいのは、これです。
今日は何をやるかを、自分で決められます。 途中で変わることもありません。
調子が悪い日は、軽い作業に切り替えられます。 誰にも断らなくていい。
これだけで、消耗の量がまったく違いました。
3-2. 文字で残る
やり取りが、文字です。
口頭で言われて消えるのではなく、書いてあるものを、何度でも読み返せます。
分からなければ、もう一度読めばいい。 誰にも聞かなくていいし、聞き直したことも記録に残りません。
これが、想像以上に楽でした。
3-3. 動くかどうかで決まる
作ったものが、動くか動かないか。 それだけです。
人の評価が入りません。 「言い方が」「態度が」といった話も出てきません。
動けば正解、動かなければ間違い。この単純さが、自分には合っていました。
3-4. 一人でも完結する
誰かに確認しなくても、最後まで作れます。
分からないことは、調べれば出てきます。人に聞かなくていいというのは、私にとって大きな条件でした。
4. 公開するまでに詰まったこと
ここからは、実際に起きたことです。
4-1. 作ることより、届けることが難しい
作るのは、なんとかなりました。
問題は、それをどう配るかです。
WordPressのプラグインは、公式のディレクトリに登録すれば、世界中の人がインストールできます。ただ、登録には審査があります。
4-2. 審査に、1か月かかりました
申請から公開まで、1か月と少しかかりました。
やり取りは10回を超えています。落ちるたびに直して、また出す。 それを繰り返しました。
いちばん時間を溶かしたのは、技術的に難しい部分ではありませんでした。
「これはやってはいけない」と言われた内容を、なんとか条件付きで通す方法を探していた期間です。
4-3. 言われたとおりにしたのに、落ちた
途中で、こう言われました。「最低でも、利用者の明示的な同意を得てから変更してください」。
同意さえ取れば通るのだと思いました。 それで、ていねいに同意の仕組みを作りました。
落ちました。
返ってきたのは、「同意があっても、その処理は許可されません」。
「最低でも同意を得てから」は、許可ではなく、譲歩の言い方だったんです。
4-4. 読み違えていたのは、自分でした
このとき、少し落ち込みました。
ただ、あとで気づいたのは、相手はずっと同じことを言っていたということです。私が、自分に都合よく読んでいた。
最終的には、その処理そのものをやめました。 別のやり方で同じことができるように、作り直しました。
そうしたら、あっさり通りました。
4-5. 続けられたのは、期限がなかったから
1か月かかっても続けられたのは、締め切りがなかったからです。
誰にも急かされていません。落ちても、次に出すまで何日空けても、誰にも迷惑がかかりません。
これが会社の仕事だったら、たぶん潰れていました。
5. 値段をつけるのが、こわかった
もう1つ、書いておきたいことがあります。
無料で配っていたものに、有料版を作ろうと決めたとき、しばらく踏み出せませんでした。
「お金を取るほどのものか」と思ってしまう。
無料なら、使ってもらえたら嬉しい、で済みます。でも、お金をもらうと、責任が生まれます。
そして、自分の作ったものに値段をつけるのは、自分の価値に値札をつけるような気がしました。
実際に売れてみて分かったのは、そうではなかったということです。値段は、自分への評価ではなく、作ったものと、それを維持する手間への対価でした。
そう思えるまでに、時間がかかりました。
6. いまの働き方
6-1. 作業所と、開発の両方

平日は、事業所に通っています。
決まった時間に、決まった作業をする。予定が決まっているので、迷いません。 ここは、私にとって働きやすい環境です。
そして、それ以外の時間に、作っています。
こちらは、自分で予定を決めます。調子のいい日に進めて、悪い日は止める。
6-2. どちらか一方ではない
両方あることが、私には合っていました。
作るだけだと、生活のリズムが崩れます。 決まった時間に外に出る予定があると、そこが軸になります。
作業所だけだと、自分で決める部分がありません。 作っている時間があるから、続けられている面もあります。
6-3. 収入の話は、書きません
この記事では、金額のことは書かないことにしました。
人によって条件が違いすぎるので、書いても参考にならないと思うからです。
ただ、いきなり生活が変わるようなものではないとは書いておきます。時間はかかります。
7. いまも解決していないこと
うまくいっている話だけを書くと、嘘になります。
7-1. 波はあります
調子のいい時期と、悪い時期があります。
いい時期は、驚くほど進みます。悪い時期は、何日も何もできません。
これは、いまも変わっていません。 慣れただけです。
7-2. 人とのやり取りは、いまも苦手です
在宅の作業でも、人とのやり取りはあります。
問い合わせが来ます。「動きません」という連絡が来ます。返信を書くのに、何時間もかかることがあります。
文字なので、口頭よりはずっと楽です。それでも、楽ではありません。
7-3. 続く保証はありません
いまはうまくいっていますが、この先も続くかは分かりません。
そこは、正直に書いておきます。
8. 同じような状況の方へ
「こうすればできます」とは書けません。
私の場合に合っていた条件が、他の方にも合うとは限らないからです。
そのうえで、役に立つかもしれないことを、いくつか書きます。
8-1. 「向いている」より「消耗しない」で考える
得意かどうかより、消耗しないかどうかのほうが、続くかどうかを決めると思います。
私の場合、予定が変わらない、文字でやり取りできる、一人で完結する。 この3つが揃っていたから続きました。
得意だから選んだわけではありません。
8-2. 期限のないものから始める
締め切りがあると、途端に難しくなります。
最初は、誰にも迷惑がかからないものから始めるのが、いいと思います。止まっても、誰も困らない。
そこで続けられたら、少しずつ広げる。
8-3. 全部を一度に変えなくていい
私は、いまも事業所に通っています。
作るほうに全部切り替えたわけではありません。両方あるから、成り立っています。
どちらかを選ばなければならない、ということはないと思います。
まとめ
- 会社勤めが続かなかったのは、能力ではなく環境が合っていなかったから
- 続いた理由は、予定を自分で決められる/文字でやり取りできる/一人で完結する
- 「向いている」より、消耗しないかどうかで考えるほうが実感に近い
- 作ることより、届けること(審査や手続き)のほうが難しかった
- 値段をつけるのは、自分の価値ではなく、作ったものへの対価
- 波はいまもある。 慣れただけ
- 期限のないものから始める。 止まっても誰も困らない状態から
- 全部を一度に変えなくていい
私が書けるのは、自分の場合はこうだったという話だけです。
ただ、「支援する側」ではなく「やった側」の記録は、あまり見かけません。だから書きました。
同じような状況の方に、選択肢の1つとして届けばと思っています。
この記事は、3本のうちの1本目です。
2本目では、体調に波がある中で、どう続けているかを書きます。3本目では、人と関わる仕事が続かなかった話を、もう少し詳しく書きます。

