前回は、何を作ってほしいかを判定できる形で書く話でした。
今回は、その手前にあるものです。どういう状況で使うものなのか。
同じ「この文章を直して」でも、社内向けの報告書なのか、初めての人が読むブログ記事なのかで、直し方はまったく変わります。
でも、それを書いていないことが多い。
自分にとっては当たり前すぎて、書く必要を感じないんです。そして、渡したつもりになる。


この記事で分かること
- なぜ前提が渡らないのか
- 渡すべき3つのこと
- 前提あり・なしの実例
- 毎回書かずに済ませる方法
1. 「書いたつもり」が起きる理由
1-1. 自分には当たり前だから
前提というのは、自分の中では説明する必要がないものです。
誰に向けた文章か。何のために作っているか。どういう場面で使うか。これらは、頼む側の頭の中では、依頼と一体になっています。
だから、書き出す発想が出てきません。
1-2. 人に頼むときは、察してもらえる
人に頼むときは、相手が補ってくれます。
同じ職場の人なら、何の仕事か知っています。前に話したことを覚えています。「いつもの感じで」で通じることもある。
AIには、それがありません。 その依頼文に書いてあることが、渡した情報のすべてです。
1-3. 実際にあった失敗
自分の例を書きます。
ある説明文を書いてもらおうとして、こう頼みました。
この機能の説明文を書いてください 返ってきたのは、専門用語が並んだ、正確だけれど難しい文章でした。
自分が欲しかったのは、その分野を知らない人に向けた説明です。そう書いていませんでした。
相手からすれば、当然です。 誰が読むか書いていないので、標準的な書き方をしただけです。
2. 渡すべき3つのこと
多くの場合、この3つで足ります。

2-1. 誰が読むか
いちばん効きます。
その分野を知っている人か、初めての人か。社内か、社外か。年齢層。立場。
読む人が決まると、言葉づかいも、説明の量も決まります。
読むのは、この分野を初めて知る人です
読むのは、同じ部署の同僚です
読むのは、取引先の担当者です 2-2. 何のためか
その文章や資料が、何に使われるのか。
読んで理解してもらうためか。判断してもらうためか。作業してもらうためか。
これを読んで、導入するかどうかを判断してもらいます
これを見ながら、実際に作業してもらいます
記録として残すためのものです 目的が違うと、必要な情報が変わります。 判断のためなら比較が要りますし、作業のためなら手順が要ります。
2-3. 何を避けたいか
これを書く人は少ないのですが、効きます。
長すぎるのは困る。専門用語は避けたい。堅い表現にしたくない。特定の話題には触れないでほしい。
専門用語は、使うなら必ず説明を添えてください
堅すぎる表現は避けたいです
価格には触れないでください 「してほしいこと」より「してほしくないこと」のほうが、はっきりしていることがあります。その場合は、そちらを書けば済みます。
3. 実例で比べる
同じ依頼を、前提あり・なしで比べます。
3-1. 前提なし
この文章を直してください
(文章を貼る) 返ってくるものは、その時々で変わります。 標準的な直し方をされるので、こちらの意図と合うかは運次第です。
3-2. 前提あり
この文章を直してください。
・読むのは、この分野を知らない一般の方です
・ブログに載せる、5分ほどで読める記事です
・専門用語は残していいですが、初めて出てきたときに説明が要ります
・堅すぎる表現は避けたいです
(文章を貼る) 4行足しただけです。それで、返ってくるものがかなり安定します。
3-3. 資料の場合
この内容を、資料にまとめてください。
・見るのは、決裁をする立場の人です
・導入するかどうかを判断してもらうためのものです
・細かい技術的な話は不要です
・費用と効果が分かる形にしてください 「誰が」「何のために」が決まると、何を書くべきかも決まります。
3-4. 調べ物の場合
○○について調べてください。
・自分は、この分野は初めてです
・実際に始めるかどうかを決めるために知りたいです
・専門用語が出たら、その場で説明を足してください
・宣伝的な情報より、注意点を知りたいです 「何を知りたくないか」を書くのも有効です。上の例だと「宣伝より注意点」と書くことで、方向が定まります。
4. どこまで書くか
4-1. 3つで足りることが多い
細かく書きすぎる必要はありません。
誰が読むか、何のためか、何を避けたいか。この3つで、たいていの依頼はカバーできます。
4-2. 短い依頼には要りません
すべての依頼に前提が必要なわけではありません。
「この単語の意味を教えて」といった単純な質問には、前提は要りません。
前提が効くのは、答えに幅がある依頼です。文章を書く、資料を作る、方針を考える。そういう場合に、方向を定める役割をします。
4-3. 迷ったら「誰が読むか」だけでも
1つだけ書くなら、これです。
読む人が決まると、言葉づかい、説明の量、扱う範囲が、かなり絞られます。
5. 毎回書かずに済ませる
面倒だと続きません。 ここが実は大事なところです。
5-1. 使い回す
よく使う前提は、メモに残して貼り付けています。
自分の場合、いくつかの型を用意しています。
【ブログ記事用】
・読むのは、この分野を知らない一般の方
・5分ほどで読める長さ
・専門用語は初出時に説明を添える
・堅すぎる表現は避ける
【社内資料用】
・見るのは、詳細を知らない他部署の人
・判断材料にするためのもの
・結論を先に、根拠は後に 毎回書き直すより、貼り付けるほうがずっと楽です。
5-2. 会話の最初に一度だけ
同じ会話の中なら、最初に一度伝えれば済みます。
これから、いくつか文章を直してもらいます。
前提は共通で、以下のとおりです。
(前提を書く)
では、1つ目です。 ただし、会話が長くなると忘れられることがあります。 これについては、第5回で扱います。
5-3. 設定として保存する
使っているサービスによっては、毎回自動で読み込まれる設定を用意できるものがあります。
「いつもこう答えてほしい」という指示を、あらかじめ登録しておく機能です。
プロジェクトを問わず共通する前提は、そこに書いておくと、毎回書かなくて済みます。
6. 前提が要らない場面
逆のことも書いておきます。
6-1. 発想が欲しいとき
アイデアを出させたいときは、前提を絞りすぎないほうがいいことがあります。
条件を細かく決めると、その条件の中でしか案が出てきません。 自分が思いつかなかったものが欲しいなら、あえて広く聞くほうが有効です。
6-2. まず試したいとき
方向が定まっていない段階では、前提を書けません。
そういうときは、まず何も指定せずに頼んで、返ってきたものを見る。 そこから「これは違う」「これは近い」と分かってきます。
その気づきが、次の前提になります。
7. 入門編のまとめ
ここで入門編が終わります。 3回を振り返っておきます。
第1回では、うまくいかない原因を3つに分けました。基準の曖昧さ、前提の不足、頼みすぎ。
第2回では、基準を判定できる形にする方法を扱いました。「いい感じに」をやめる。
第3回(この記事)では、前提の渡し方を書きました。誰が読むか、何のためか、何を避けたいか。
この2つを押さえるだけで、返ってくるものはかなり安定します。 実際、自分の場合はここでほとんどの問題が解決しました。
次回からは実務編です。仕事で使う方向けに、間違いをどう見つけるかを扱います。
まとめ
- 頭の中にある前提は、自分には当たり前すぎて書く発想が出ない
- 人には察してもらえるが、AIには書いたことしか渡らない
- 渡すべきは3つ。誰が読むか/何のためか/何を避けたいか
- 「何を避けたいか」は書く人が少ないが、効く
- 前提が効くのは、答えに幅がある依頼。単純な質問には要らない
- 1つだけ書くなら、「誰が読むか」
- 使い回す。 毎回書き直すのは続かない
- 会話の最初に一度伝えれば、その会話では共通で効く
- 発想が欲しいときは、あえて絞らない
前提を書く作業は、自分が何をしようとしているかを整理する作業でもあります。書き出してみて、「そういえば、誰に向けたものか決めていなかった」と気づくこともあります。
次回からは実務編です。返ってきたものを、どう確かめるかを扱います。仕事で使う場合、間違いが混ざると困ります。それらしく正しく見えるものほど、疑うきっかけがないという話を書きます。
※本記事の情報は2026年8月時点のものです。

