電話が鳴ると、体がこわばります。
出れば話せます。用件も伝えられます。ただ、切ったあと、しばらく何もできなくなる。
口頭で指示を受けるのも、苦手でした。
聞いた瞬間は分かったつもりでいて、手を動かし始めると分からなくなる。 聞き直すと、「さっき言いましたよね」という空気になる。それが怖くて、聞けなくなる。
そして、間違ったものを作ります。
私は発達障害の当事者です。人と関わる仕事が、続きませんでした。
いまは、関わり方を変えることで、続けられています。 人を避けたわけではありません。関わる形を、自分に合うものに変えました。
この記事は、その記録です。

この記事に書くこと
- 何が難しかったのか
- 「人と関わらない仕事」を探して、分かったこと
- 関わり方を変えるという方法
- それでも残る、しんどい場面
1. 具体的に、何が難しかったか
「コミュニケーションが苦手」では、何も伝わりません。 具体的に書きます。
1-1. 口頭の指示が、入らない
聞いているときは、分かっています。
問題は、そのあとです。 手を動かし始めると、細かいところが抜けている。「あれ、どっちだったか」となる。
メモを取ればいいと言われました。そのとおりです。ただ、聞きながら書くと、今度は聞き逃します。
聞くことと、書くことを、同時にできませんでした。
1-2. 聞き直せない
分からないまま進むのが、いちばん良くない。 それは分かっています。
でも、聞き直せませんでした。
一度説明されたことを、もう一度聞く。そのときの相手の反応が、怖い。
そして、聞かずに進めて、間違えます。 間違えると、次はもっと聞きにくくなります。
1-3. 電話
いちばん苦手でした。
準備ができません。いつかかってくるか分からないし、何を言われるかも分からない。
出れば、話せます。ただ、そのあとしばらく消耗します。
1本の電話で、その後の1時間が使えなくなることがありました。
1-4. 雑談
これも、消耗します。
嫌いなわけではありません。ただ、疲れます。
何を話すか、どこで話を切るか、相手がどう思っているか。 常に考えているので、休憩になりません。
休憩時間が、いちばん疲れる時間でした。
1-5. 予定が変わる
朝の時点で決まっていたことが、途中で変わる。
それだけで、その日は使い物にならなくなります。
「臨機応変に」と言われても、頭の中の組み立て直しに、人の何倍も時間がかかります。
2. 「人と関わらない仕事」を探しました
2-1. そういう記事は、たくさんあります
検索すると、出てきます。
在宅ワーク、データ入力、清掃、警備、ドライバー。「人と関わらない仕事」の一覧です。
実際に、いくつか試しました。
2-2. 完全に関わらない仕事は、なかった
結論から言うと、ありませんでした。
どんな仕事でも、始めるときには説明を受けます。 何か問題があれば、報告します。納品するなら、相手がいます。
「人と関わらない」ではなく、「関わる量が少ない」だけでした。
そして、量が少ないぶん、一回一回の比重が上がります。 月に1回しかないやり取りで失敗すると、それが全部になる。
2-3. 避けるだけでは、続かなかった
人を避ける方向で選んでいくと、選べる仕事がどんどん減ります。
そして、減った先にあるのが、自分に合う仕事とは限りません。
避けることを目的にすると、行き止まりになるというのが、実感でした。
3. 関わり方を変える

3-1. 苦手なのは、人ではなかった
あるとき、気づいたことがあります。
私が苦手なのは、人そのものではありませんでした。
苦手なのは、準備できない状況です。いつ来るか分からない、何を言われるか分からない、その場で答えなければならない。
同じ相手でも、形が変われば、負担がまったく違うことに気づきました。
3-2. 文字なら、大丈夫だった
電話は苦手ですが、文章のやり取りは、ずっと楽です。
理由は、はっきりしています。
読み返せます。 一度で理解できなくても、何度でも読める。
時間をかけて返せます。 その場で答えなくていい。考えてから書ける。
記録が残ります。 「言った・言わない」がありません。
そして、聞き直したことが残りません。 前のメッセージを、自分でもう一度読むだけなので。
3-3. 同じ内容でも、形が違うと違う
これが、この記事でいちばん書きたいことです。
「指示を受ける」という同じ行為でも、口頭とテキストでは、負担がまったく違います。
内容が難しいのではなく、形が合っていなかった。
私は長いあいだ、自分の理解力が足りないのだと思っていました。 そうではなく、入り口が合っていなかっただけでした。
3-4. いまの働き方
やり取りは、ほとんど文字です。
問い合わせは文章で来ます。返信も文章です。電話はありません。
そして、返信のタイミングを自分で決められます。 調子の悪い日は、翌日に回せます。
これで、続いています。
4. それでも、楽ではありません
うまくいっている話だけを書くと、嘘になります。
4-1. 文字でも、消耗します
電話よりずっと楽ですが、楽ではありません。
問い合わせの返信を書くのに、何時間もかかることがあります。
書いて、読み直して、言い方を変えて、また読み直す。送るまでに、何度も書き直します。
「これで伝わるだろうか」「きつく聞こえないだろうか」と考え続けるので、時間がかかります。
4-2. 返信を、溜めてしまう
書けない日があります。
そういう日は、返信を後回しにします。そして、溜まります。
溜まると、開くのが怖くなります。 「もう何日も返していない」と思うと、さらに開けなくなる。
これは、いまも解決していません。
4-3. 対処していること
完全な解決ではありませんが、やっていることを書きます。
受け取ったことだけ、先に返す。
ご連絡ありがとうございます。
確認しますので、少しお時間をください。 内容に答えなくても、これだけは返せます。 そして、これを返しておくと、溜めている感覚が減ります。
返信の型を用意しておく。
よくある問い合わせには、あらかじめ書いておいた文章を使います。ゼロから書くより、ずっと楽です。
返信の時間を、決めておく。
いつでも返せる状態にしておくと、常に気になります。 「この時間に返す」と決めておくと、それ以外の時間は考えずに済みます。
4-4. 会って話す場面は、いまもあります
在宅の作業が中心でも、人と会う場面はゼロにはなりません。
そのときは、準備をします。 何を話すかを、先に書き出しておく。その場で考えなくて済むようにする。
準備できていれば、話せます。 できないのは、いきなり来たときです。
5. 伝えることについて
苦手なことを、相手に伝えるかどうか。
これは、難しい判断だと思っています。
5-1. 全部を伝える必要はない
「発達障害です」と言わなくても、伝えられることがあります。
「口頭だと聞き漏らすので、文章でいただけると助かります」
「急な変更に対応するのが苦手なので、分かった時点で教えてもらえると助かります」
具体的な要望として伝えるほうが、通じやすいと感じています。
5-2. 「助かります」で伝える
「できません」より「こうしてもらえると助かります」のほうが、受け入れられやすい。
これは、自分の経験からの実感です。相手も、どうすればいいか分かるので。
5-3. 伝えなくてもいい場面もある
すべての相手に、すべてを説明する必要はありません。
短い関わりの相手なら、言わずに済ませることもあります。
伝えるかどうかは、そのつど選べます。
6. 同じような方へ
「こうすればできます」とは書けません。
私の場合に合っていた形が、他の方にも合うとは限らないからです。
そのうえで、書いておきたいことがあります。
6-1. 避けるより、形を変える
「人と関わらない仕事」を探すと、選べる範囲が狭くなります。
そして、完全に関わらない仕事は、たぶんありません。
同じ関わりでも、形が変われば負担が変わる。 ここを探すほうが、選べる幅が広がると思います。
6-2. 何が苦手なのかを、具体的にする
「コミュニケーションが苦手」では、対処のしようがありません。
電話なのか、口頭の指示なのか、雑談なのか、急な変更なのか。
具体的にすると、避けるべきものと、形を変えれば済むものが分かれます。
私の場合、電話は避けるべきもの、指示は形を変えれば済むものでした。
6-3. 苦手なのは、人ではないかもしれない
私は長いあいだ、自分は人が苦手なのだと思っていました。
そうではありませんでした。
苦手だったのは、準備できない状況と、その場で答えなければならないことでした。
そこが分かってから、選び方が変わりました。
まとめ
- 苦手だったのは、口頭の指示/聞き直せないこと/電話/雑談/急な予定変更
- 「人と関わらない仕事」を探したが、完全に関わらない仕事はなかった
- 避けることを目的にすると、選べる範囲が狭くなる
- 苦手なのは人ではなく、準備できない状況とその場で答えることだった
- 同じやり取りでも、形が変われば負担が変わる
- 文字なら読み返せる/時間をかけて返せる/記録が残る/聞き直しが残らない
- ただし、文字でも消耗する。 返信に何時間もかかることがある
- 溜めてしまう問題は、いまも解決していない
- 対処:受け取ったことだけ先に返す/型を用意する/返す時間を決める
- 伝えるときは、「できません」より「こうしてもらえると助かります」
人と関わるのが苦手だと思っていました。
いまは、関わり方が合っていなかっただけだと思っています。
形を変えたら、続きました。 それだけの話ですが、そこにたどり着くまでに、ずいぶん時間がかかりました。
この記事は、3本のうちの3本目です。
1本目では作業所に通いながらソフトを作って公開した話を、2本目では体調に波がある中でどう続けているかを書きました。あわせてどうぞ。


