これまでは医療補助を受けられる制度などについてご紹介してきましたが、日常生活を行う上で様々な支障が生じる難病の場合、福祉サービスの利用も検討しなければならない場合があります。
医療ではなく福祉サービスというと、何があるのでしょうか?
大きく分けると「障害福祉サービス」と「介護保険サービス」です。「障害者手帳が無い難病患者でも障害福祉サービスを使えるの?」「65歳未満でも介護保険サービスが使えるの?」という疑問に解説していきます。
障害福祉サービス(障害者総合支援法)
「障害者総合支援法」の目的
障害者及び障害児が基本的人権を享有する個人としての尊厳にふさわしい日常生活又は社会生活を営むことができるよう、必要な障害福祉サービスに係る給付、地域生活支援やその他の支援を総合的に行います。これによって、障害の有無にかかわらず国民が相互に人格と個性を尊重し安心して暮らすことのできる地域社会の実現に寄与することを目的にしています。
利用については、市町村の障害福祉窓口や都道府県が指定する指定相談支援事業者などへの相談が必要です。
「障害者総合支援法」の対象者
対象範囲は、身体障害者、知的障害者、精神障害者(発達障害者を含む)、政令で定める難病等により障害がある者です。
つまり、障害者手帳(身体障害者手帳・療育手帳・精神障害者保健福祉手帳)を持っていなくても、「政令で定める難病等」に含まれていれば、必要と認められた支援が受けられます。
「障害者総合支援法の対象疾病(難病等)」は、令和3年11月現在、366疾病です。
難病法に基づく「指定難病」は、障害者総合支援法の対象疾病に全て含まれています。随時見直しが行われますので、最新情報は以下の厚生労働省HPでご確認下さい。
【参考リンク】
厚生労働省HPより「障害者総合支援法の対象疾病(難病等)」
「障害者総合支援法」で受けられるサービス
居住する自治体によって、そして利用者自身の障害の程度や所得に応じて、利用できるサービスや量、利用料の自己負担額が異なります。一般的には以下のようなサービスがあります。
- 居宅介護:食事・入浴・排せつ等の介護、調理・洗濯・掃除等の援助、通院などの介助
- 重度訪問介護:重度の肢体不自由で常に介護を必要とする人に、自宅で入浴・排せつ・食事の介護、外出時における移動支援などを総合的に行う。
- 移動支援:社会参加や余暇活動等の外出の際にガイドヘルパーが移動を支援する。
- 生活介護(デイサービス):常に介護を必要とする人に、昼間、入浴・排せつ・食事の介護等を行うとともに、創作的活動又は生産活動の機会を提供する。
- 療養介護:医療と常時介護を必要とする人に、医療機関で機能訓練、療養上の管理、看護、介護及び日常生活の世話を行う。
- 短期入所:自宅で介護する人が病気の場合などに、短期間、夜間も含め施設で、入浴・排せつ・食事の介護等を行う。
- 自立訓練(機能訓練・生活訓練):自立した日常生活又は社会生活ができるよう、一定期間、身体能力や生活能力の向上のために必要な訓練を行う。
- 就労移行支援:一般企業等への就労を希望する人に、一定期間、就労に必要な知識及び能力の向上のために必要な訓練を行う。
- 就労継続支援:一般企業等での就労が困難な人に、働く場を提供するとともに、知識及び能力の向上のために必要な訓練を行う。
- 補装具の支給:身体障害児・者の障害のある部分を補う用具(補装具)の購入等にかかる費用を支給する。
- 日常生活用具給付等:重度障害児・者の日常生活の便宜を図るための自立生活支援用具等の日常生活用具を給付又は貸与を行う。
介護保険サービス(介護保険法)
「介護保険法」の目的
加齢に伴って生ずる心身の変化に起因する疾病等により要介護状態となり、入浴、排せつ、食事等の介護、機能訓練並びに看護及び療養上の管理その他の医療を要する者等について、これらの者が尊厳を保持し、その有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう、必要な保健医療サービス及び福祉サービスに係る給付を行うため、国民の共同連帯の理念に基づき介護保険制度を設け、その行う保険給付等に関して必要な事項を定め、もって国民の保健医療の向上及び福祉の増進を図ることを目的とする。(介護保険法第1条より)
「介護保険法」の対象者
下記の1又は2に該当する方で、要介護1~5、要支援1・2と認定された方。
- 第1号被保険者:65歳以上
- 第2号被保険者:40~64歳の医療保険に加入している方で、次の16種類の病気(=特定疾病)に該当する方→これは「指定難病」とイコールでは無い為、注意。
介護保険の対象となる特定疾病(16疾病)
- がん(末期):医師が一般に認められている医学的知見に基づき回復の見込みがない状態に至ったと判断したものに限る。
- 関節リウマチ
- 筋萎縮性側索硬化症(ALS)
- 後縦靱帯骨化症
- 骨折を伴う骨粗鬆症
- 初老期における認知症
- 進性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症およびパーキンソン病
- 脊髄小脳変性症
- 脊柱管狭窄症
- 早老症
- 多系統萎縮症(MSA)
- 糖尿病性神経障害、糖尿病性腎症および糖尿病性網膜症
- 脳血管疾患
- 閉塞性動脈硬化症
- 慢性閉塞性肺疾患
- 両側の膝関節または股関節に著しい変形を伴う変形性関節症
「介護保険法」で受けられるサービス
居住する自治体によって、そして利用者自身の要介護度や所得に応じて、利用できるサービスや量、利用料の自己負担額が異なります。
障害福祉サービスで提供されるサービスと同じようなものがありますが(名称など、正式には異なりますがここでは省略します)、障害福祉サービスには無かったものとしては、以下のようなものがあります。
- 通所リハビリテーション/介護予防通所リハビリテーション(デイケア):介護老人保健施設や介護医療院、医療施設で、機能訓練(リハビリテーション)等を行う。
- 福祉用具の貸与:日常生活を送ることに支障がある場合、自宅で過ごしやすくするための福祉用具や機能訓練のための福祉用具を借りることができる。
- 介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)
- 介護老人保健施設(老人保健施設)
「障害福祉サービス」と「介護保険サービス」どちらを使うべきか
ここまでお読みいただくとお気づきかと思いますが、「障害福祉サービス」と「介護保険サービス」のどちらも利用できる対象の難病(及び年齢)の方がいます。
どちらを使うかでよく悩まれるのですが、基本、両方を併用することが可能です。
サービスの併用
併用すると、社会保障制度の原則である「保険優先」の考え方から、障害福祉サービスに相当する介護保険サービスがある場合は、原則、介護保険サービスに係る保険給付を優先して受けることになります。
ただし、介護保険サービスを優先した場合に、利用者が真に必要なサービスを著しく受けられない等の場合には「一律に当該介護保険サービスを優先的に利用するものとはしないこととする。」と厚生労働省からの通知にもあります(2007年通知「障害者総合支援法に基づく自立支援給付と介護保険制度との適用関係等について」)。
例えば、24時間の見守りが必要な重度の難病患者の在宅介護を行う場合、介護保険サービスだけでは支給量が足りないため、障害福祉サービスにある「重度訪問介護」を利用することが本人、家族ともに最適な選択肢であることがあります。
介護保険の優先利用にも例外があることをよく知らない自治体窓口職員や相談支援専門員がその利用を却下する事例がよくありますので、利用する側も、こんな通達が厚労省から出ているとの根拠を示しつつ、交渉していく必要があります。
【参考リンク】
厚生労働省HPより資料「介護保険と障害福祉の適用関係 」
福祉用具導入において
車椅子や電動ベッドなど福祉用具の利用に補助を受けたい場合、進行性の難病では病状進行に伴い短い周期で身体に合う物に買い替えなければならない事もあります。福祉用具を買い取る必要がある障害福祉サービスのほうだと、例えば車椅子は購入すると6年の耐用年数が過ぎないと、再購入しても費用補助が受けられません。そう言った時には非常に使いづらい制度です。
一方、レンタル制度がある介護保険サービスのほうですと、身体に合わない時には交換ができ、月々の費用も安く抑えられます。
ただ、レンタルですとメンテナンスされた中古品の時もあり、場合によっては故障が多いという声を聞くときもありますので、一概にレンタルが最善とも言い切れません。福祉用具業者さんにもよりますので、じゅうぶん相談したうえでの利用をお勧めします。
まとめ
難病患者それぞれの病状や、住む地域の制度によって、使えるサービスが異なりますので、じゅうぶんな情報収集が必要です。
例えば障害福祉サービスにある「重度訪問介護」を利用したくても、住む地域に介護事業所やヘルパーさんといった担い手が不足していれば実際は使う事が出来ません。制度は存在しているのに、その自治体窓口自体が、その利用を認めていないというところもあると聞きます。
難病患者として私が必要だと考えるのは、以下の2つです。
- 自分と同じ難病仲間からの情報収集
- 住む地域で使える公的サービスの情報収集
1は、個人差はあれど、同病患者の意見を参考にする事で、自分がこれから必要になるであろう対策が分かるという面があります。
正直、自分よりも病状が進行した仲間の姿を見る事は、将来の自分の姿を重ねてしまい、つらい部分もあります。しかし、同病だからこその共感できることなど得るものは大きいです。
同病の人がいない場合には、似たような疾病の方でも良いと思います。どんな公的補助を使っているのか、自分だけで調べるよりも遥かに役立つでしょう。
2は、居住する地域の難病支援センター、障害者地域生活支援センターなどに相談するといいでしょう。幅広い制度を横断して詳しく知っている専門家がおられたりします。
同じサービスでも地域によって補助割合が違う、制度そのものが無いなど地域差がありますので必ず自分の地域の情報を調べましょう。