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映画『フォーリング・ダウン』誰にでも起こりうる「凶行」の可能性を、一人の男性を通して描く

生きづらさを抱えて
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今回紹介する映画作品は、サスペンス・スリラー『フォーリング・ダウン』です。

真面目に生きる一人の男性がある日、何の前触れもなしに数々の凶行を重ねていくというこの物語。

彼はなぜその行動に及んだのか?そして彼が本当に目指したものは何だったのか?具体的な説明は、この物語では全く行われません。

しかしそれゆえに、見る側が彼の心理を深く推し量り、「生きづらさ」という課題に対し自分の気持ちと重ねて考えてみたくなる、そんな作品であり、私は時に見直したくなる、そして自らの気持ちを改めて考えたくなるものであります。

今回は、この映画で描かれる数々のトラブルより、その元凶となった主人公が抱いた「生きづらさ」の根源となったものを探ってみたいと思います。

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映画『フォーリング・ダウン』とは

映画『フォーリング・ダウン』概要

ロサンゼルスの暑い一日を舞台に、日常生活に疲れた平凡な男が、何かのきっかけで数々の事件を起こしていく姿を描く1993年公開のサスペンス・スリラー。

監督は『セント・エルモス・ファイアー』『ロストボーイ』『フラットライナーズ』などを手掛けたジョエル・シューマカー。

ダブル主演として『ブラックレイン』『ローズ家の戦争』『氷の微笑』などのマイケル・ダグラス、『ゴッドファーザー』シリーズ、『地獄の黙示録』『ランブリング・ローズ』などのロバート・デュヴァルがキャスティング。

さらに他にはバーバラ・ハーシー、フレデリック・フォレスト、チューズデイ・ウェルド、レイチェル・ティコティンらが名を連ねています。

あらすじ

とある暑い夏の朝、渋滞にはまったハイウェイの出口近く。一人の男性が何かのきっかけで自らの車を乗り捨て、歩き出してしまいます。

車のナンバープレートには「D-フェンス」の文字。彼は電話をしようとしたが小銭がなく、両替をしてもらおうと入ったコンビニエンス・ストアで、彼を邪険に扱うアジア系の店主に腹を立て店で暴れてしまいます。

彼の行動の糸口は些細なことでしたが、その感情の爆発は徐々に大きな事件へと発展していきます。

一方、この日定年を迎えた刑事プレンダガストは、その朝にハイウェイで出くわした奇妙な出来事が、その後にあちこちで発生する怪事件につながっていることに、徐々に気が付いていきます…

キーワード『フォーリング・ダウン』の意味


劇中では物語のもう一人の主人公である刑事プレンダガストが、精神的に不安定な妻を電話であやすために、マザー・グースの歌「ロンドン橋落ちた」を歌うシーンがあります。

そしてこの歌詞の一節にある「London Bridge is falling down,falling down, falling down.」という部分が、タイトルの「フォーリング・ダウン」というキーワードとつながっており、この歌こそが物語の主題をつかむために重要なカギを握っているともいえます。

「ロンドン橋落ちた」は、堅牢さを誇っていたロンドン橋が、時代のさまざまな事件で脆くも陥落した事象を示しているともいわれていますが、「堅牢」であるにもかかわらず、予想だにしなかった出来事で簡単に崩壊してしまうことがある、そのさまは物語の真意を彷彿しているようでもあります。

マイケル・ダグラスが演じた主人公D-FENSは厳格で几帳面な性格の男性。まさに一見「堅牢」にも見えた彼の人生ですが、この事件の日を迎えるまで、さまざまに彼を脅かす出来事があり、それがこの日突然彼の「崩壊」、つまり彼が引き金となる暴挙の数々を生み出した格好となっているわけです。

余談ですが、「ロンドン橋落ちた」は、上記の歌詞中の「falling down」という部分がもともとは「broken down」となっていたものの、アメリカでは「falling down」とするのが一般的となっているといわれています。

D-フェンスが最初に起こしたトラブルとして、韓国系である店の店主とトラブルになり、彼が自分がアメリカ人であることを主張するとともに韓国との優位性を叩きつけるシーンがありますが、この歌詞はその意味でも強い印象を持つものであるといえます。

ちなみにその後彼は劇中で極右傾向にあるミリタリーショップの店長と口論になり、自ら彼とは同類ではないことを主張したことからも、彼自身が最初に起こしたトラブル、韓国系のコンビニ店主と起こしたトラブルが保守的な考えを支持したわけではないことがわかります。

凶行の影に隠れた「不条理さ」


「ある日突然に、一人の男性が巻き起こしたトラブル」ということであれば、この作品は単なるアクションサスペンスというジャンル映画のくくりとされてしまうことでしょう。本作の真意は、彼に降りかかるさまざまな危機、脅威が非常に不条理なものばかりであることを、暗に描いているという点にあります。

自分の価値観をはっきりと持ちながら、展開の中で爆発させるように自分の意見を吐き出すD-フェンスは、もともとその思いを周囲にうまく吐き出せていなかったようにも見受けられます。

父は軍で優秀な結果を残した偉大な存在。自らも軍需工場に務め堅実な生活を務めながらも、事件の一カ月前に仕事をクビに。さらに妻子とは離婚、それでも家族という関係を諦めきれず、たびたび家を訪れたことを訴えられ、裁判所からは接近禁止命令を下されるという始末。

そして劇中ではコンビニで買い物をしようとすると不当な値段を突き付けられ、街中では言いがかりから金を巻き上げられそうになり、レストランではモーニングセットが欲しいと告げるも丁寧に断られと、まさに不条理のオンパレード。

興味深いのは、D-フェンスの行動をメディアや警察の通報では「凶悪な事件」と伝えているのに、実際の彼の行動は正当防衛であったり、相手に対し強要をしない丁寧な口調であったりと、批難の対象がないように見えることにあります。

彼のさまを見ていると、世にあふれている暴挙の報道は果たして本当にメディアで伝えられているままのものであるのか、本当に事件の首謀者だけが問題なのか、と疑いの思いすら沸いてくることでしょう。

誰にでも起こり得る「凶行」の可能性


一方でもう一人の主人公であるプレンダガストの視点も、重要なポイントであります。

彼はこの日を迎えるまでは妻の精神的不安定さを理由に現場を離れ、警察所内ではどちらかというと日陰の人間となったことで署長にはなじられ、同僚にはからかわれながらも笑ってやり過ごしています。

ところがD-フェンスの行動が明らかになっていくにつれ行動はどこか荒くなり、からかっていた同僚にカッとなり彼を殴りつけ、最後は署長に悪態をつきます。

彼のこの心理的変化は、物語が展開していくにつれどこかD-フェンスの心理にだんだんと重なっていくようにも見え、その意味でD-フェンスの凶行は、ある意味では誰にでも起こり得る可能性をはらんでいるようにも見えてきます。

D-フェンスが劇中で起こした事件は決して褒められるようなことではありませんが、彼の心理的爆発を見ていると胸が苦しくなり、感情移入してしまう人も少なくないのではないでしょうか。

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