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映画『月』 石井裕也監督をはじめ俳優、スタッフ陣が覚悟をもって挑んだ問題作|広島国際映画祭2023レポート その1

生きづらさを抱えて
(C)2023「月」製作委員会
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11月23日より4日間に亘り、広島にてイベント『広島国際映画祭2023』が開催されました。

この映画祭は2009年に開催された「ダマー映画祭inヒロシマ」を前進として誕生したもので、広島という地で行われることをコンセプトとして「ポジティブな力を持つ作品を、世界から集めた映画祭。」というポリシーを掲げ毎年開催されており、今年は15周年という節目の時を迎えました。

今回はコラムにて、この映画祭で特別招待された作品を、イベントに招待されたゲストによるトークショーのレポートとともに紹介していきたいと思います。

第1回は石井裕也監督による映画『月』です。

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映画『月』とは

概要

実際に起きた障がい者殺傷事件から着想を経て描かれたという小説家・辺見庸の同名小説を映画化したドラマ。

作品を手掛けたのは、『町田くんの世界』(’19)、『生きちゃった』(’20)、『茜色に焼かれる』(’21)、『アジアの天使』(’21)、『愛にイナズマ』などの作品を手掛けた石井裕也監督。

主人公・堂島洋子役を宮沢りえが担当、さらに洋子の夫・昌平をオダギリジョー、同僚のさとくんを磯村勇斗、陽子を二階堂ふみと錚々たる面子がキャストに名を連ねています。

あらすじ

(C)2023「月」製作委員会

過去に東日本大震災を題材とした小説で受賞をしながらも現在は執筆から離れてしまった女性、堂島洋子。現在は夫と2人で慎ましく暮らす中、森の奥深くにある重度障がい者施設で働きはじめることとなりました。

そこで彼女は、作家志望の陽子や、絵の好きな青年さとくんといった同僚たちと出会います。

光の届かない部屋でベッドに横たわったまま動かない、きーちゃんと呼ばれる女性をはじめ、さまざまな入所者と対峙する中で洋子は、自分と生年月日が一緒のきーちゃんのことをどこか他人だと思えず親身に接するようになります。

しかし他方で他の職員による入所者への劣悪ないたずらや暴力を目の当たりにし、心に葛藤を募らせていきます。

そんな中、その理不尽な状況に憤るさとくん。自身の正義感が入所者を卑下する職員たちの声とぶつかることで、さとくんの心には捻じ曲げられた使命感を徐々に増幅させていき、密かにその思いを実行に移していくのでした……。

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広島国際映画祭2023 石井裕也監督 トークショー


作品は11月25日に公開され、公開後には作品を手掛けた石井裕也監督が登壇し、映画製作にまつわる経緯などを語りました。

もとより辺見庸さんの大ファンで、小説「月」では自ら文庫版のあとがきを担当していたという石井監督。本作の映画化は、企画・エグゼクティブプロデューサーとして知られるの故・河村光庸氏が「月」の映画化を模索する中で監督を打診したことがきっかけで制作が始まったといいます。

「何か言えば批判が出てくることも予想できましたが、作家というより人間としての態度が問われることなので、やるしかないと思いました」と、河村プロデューサーからのオファーを、覚悟をもって受けたという石井監督。その時の心情には、作品に、映画化としてはタブーとされる可能性のあるものを描くという恐れへの葛藤があったと振り返ります。

一方で「映画祭ならでは」の裏話も盛り上がりつつ、「(作品を見て)言葉が出ないという人もいるかもしれませんが、見て頂けたことだけで僕は嬉しいですし、何か意味があるのではと思います」と、多くの反響に対する素直な感謝の気持ちを明かしトークショーを締めくくりました。

「思いを乗せた声の届き方」を強く印象付けられる作品


実際に起きた障がい者殺傷事件から着想を得たという本作でありますが、作品からは「自ら発せられた声が、いかに人に伝わっていくのか」という点に強い印象がうかがえます。

物語は”多くの障がい者は声を発することができず、それゆえに施設などでの問題を発することが多い”といったテロップからスタートします。この「声」というポイントにより物語を注視していくと、登場する人物たちの「声」のやり取りが浮かび上がり見えてきます。

物語の展開を見ていくと、まず主人公・洋子を含む四人のメインキャラクターの思い、そしてその声は、その周辺の人たちに全く届いていないような印象すらおぼえてきます。

一方で、この四人の間でそれぞれの思いを乗せた声は「全く届かない」「部分的に届いたりする」「届く」といったさまざまな状況があり、どこか不安定な意思のやり取りを感じます。その様は、まるで周囲から隔離され何か戸惑っているようなイメージすら見えてくるでしょう。

もちろん殺傷事件は恐ろしい出来事であり、本件でも注目すべき大事な事象でありますますが、ここに見えてくる思いの伝わる様子、伝わらない様子も重要なポイントであり、その忌まわしい事件の要因が非常に複雑なものであることを物語っているようでもあります。

それを例えば善悪などという尺度で評価することは困難であり、作品ではその本質的なポイントを繊細に、そして緻密に描いています。

トークショーで本作に関し石井監督は「辺見さんがなぜこの事件を小説にしたか」ということを、自分なりに解釈したことがむしろ重要だった、とも語っています。

本作は「ショッキングな事件を取り上げ、社会の重要な問題として祭り上げ、何かの問題に対して異議を唱える」というような単調な視点の捉え方で描かれたものではなく、闇の中にうごめく人間の普遍的な性質に触れ、もっと広い視点で人間の生き方を考える必要があることに意識を向かわせてくれるような印象もあるといえるでしょう。

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