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映画『惑星ラブソング』「反核」「平和」への新たなアプローチを感じさせる物語|広島国際映画祭2024レポート その3

生きづらさを抱えて
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11月22日より3日間に亘り、広島にてイベント『広島国際映画祭2024』が開催されました。

この映画祭は2009年に開催された「ダマー映画祭inヒロシマ」を前進として誕生したもので、広島という地で行われることをコンセプトとして「ポジティブな力を持つ作品を、世界から集めた映画祭。」というポリシーを掲げ毎年開催されており、今年は15周年という節目の時を迎えました。

今回はコラムにて、この映画祭で特別招待された作品を、イベントに招待されたゲストによるトークショーのレポートとともに紹介していきたいと思います。

第2回は、時川英之監督による映画『惑星ラブソング』です。

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映画『惑星ラブソング』とは

概要

(C)惑星ラブソング製作委員会

とある広島の若者が謎の外国人旅行者と出会い、交流を深めていく上で忘れ去っていた自身の過去と、広島の哀しい歴史に向き合っていく姿を描いた物語。

広島在住の時川英之監督が作品を担当、作品はほとんどが広島県内で撮影が行われました。プロデュースを時川監督が手がけた『彼女は夢で踊る』に引き続き、アナウンサーの横山雄二が担当。

キャストには『交換ウソ日記』『なのに、千輝くんが甘すぎる。』の曽田陵介、『つぎとまります』『リゾートバイト』などの秋田汐梨の他にチェイス・ジークラー 、八嶋智人らが名を連ねています。

あらすじ

ある日、広島の若者モッチとアヤカは、謎めいたアメリカ人旅行者ジョンに出会い、広島の街を案内することになる。ジョンには不思議な力があり、広島の街に何かを見つけていく。

一方、小学校で広島の歴史を聞いて怖くなった少年ユウヤは不思議な夢を見る。夢の中の少女はユウヤを戦前の広島へと案内する。

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広島国際映画祭2024 横山雄二、曽田陵介トークショー

横山雄二(右)、曽田陵介(左)

作品は11月23日に上映され、残念ながら作品を手がけた時川英之監督は当日体調不良で欠席となってしまいましたが、公開後には時川監督とともにプロデュースを担当した横山雄二、主人公モッチ役を務めた曽田陵介が登壇し、映画製作にまつわる経緯などを語りました。また当日はエキストラ出演した方々も多く会場に集まり、大いに盛り上がりました。

横山は時川監督とともに、本作に対して反核というテーマに対する「受け入れられやすさ」というポイントに強くこだわったことをコメント。これまで発表された反核を訴える映画は「広島の原爆投下を直接伝える」という視点が強く、その悲惨さ、残酷さを訴える重い表現を中心としたものが多い印象であり、その表現が必要である一方で、新たな視点で反核を訴えるコンセプトが必要があることを考えていたことを振り返ります。

そして本作は恋愛、そしてファンタジックなイメージを中心とすることで、平和への想い、願いをやわらかなイメージで表現。「過激な描写がなくても反戦映画が出来るのでは」というポリシーで本作を作り上げたことを説明します。

もとから本作の主演第一候補として挙げられていたという曽田は、「大学時代は、まさかこの世界に入るとは思わなかった」と芸能界入り前の気持ちを振り返りながらも、作品の出演を重ね本作で主演を務めたていくことで気持ちは大きく変わり、現場の雰囲気がすこぶる良好であったことからも「(今は)自分に向いているような気がします」と語り、俳優としての自信を得た様子を見せていました。

若者が「平和」を考えるための新たなアプローチ


反核、平和。本作にはこの広島という場所と密接な関係にあるテーマを「ラブソング」、歌というキーワードで織り込んだユニーク作品でありますが、そのアプローチはこのテーマ、社会的課題への向き合い方が新たなステージに移っていることを感じさせます

主人公の青年・モッチは広島在住で、幼いころから原爆投下の事実をさまざまなメディアや教育で知らされながら「平和」という課題に対してあいまいな認識しかなく、一方で自身の進路についてもはっきりせずモヤモヤした思いを常に抱えている若者。

このモッチという一人の青年の人物像は現在の若い世代、いわゆる「戦争を知らない」世代の中でも最も若い世代の真の姿を象徴しているようにも見えます。


今回の映画祭では『惑星ラブソング』が上映される前に、アイスランドのバルサダール・コルマウク監督は、トークショーで「核使用という危機に対する、若者の意識の薄さ」という点を指摘していましたが、残念ながらある意味それは当然のことであるようにも考えられます。

「被曝」自体、あるいはその影響を経験していない者は、この問題の重要さ、深刻さということは理解できても、身をもって知る「痛み」は分からない。これは年齢、世代を重ねていけばなおさらのことでしょう。そしてその「痛み」の事実をいきなり突き付けられ、答えを求められ、戸惑うわけです。

このような状況にある現代において、本作は「平和」「反核」というテーマを主眼に置きながらも、合わせて若者がこれからどのように成長し、さまざまな問題に向き合っていくべきかを提起しているようでもあります。


作品はCGなどを積極的に利用した大胆な展開なども見られ、エンタテインメント的な見どころもたくさん含まれた作品と仕上げられていますが、これはまさに新たな世代に向けての、意識の変革を推し進めるヒントを示し、各自に新たな動きを即しているような物語であるともいえるでしょう。

2024年は日本被団協(日本原水爆被害者団体協議会)がノーベル賞を受賞、世界が反核というテーマに改めて注目し始めていることを感じさせていますが、同時にこのテーマは世界を担う若者たちへの重責と変わっていくタイミングであり、このテーマに対し新たなアプローチを進めていく必要があることも考えさせられている時。その意味では「今まさに待ち望まれたもの」であるともいえる物語であります。

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