2024年の能登半島地震で甚大な被害を受けた石川県の穴水町を舞台に地方政治の実態に深く切り込んだドキュメンタリー映画『能登デモクラシー』が公開されました。
富山のチューリップテレビ時代の当時同僚であった砂沢智史とともに手がけた、富山市議会の政務活動費不正問題を追った2020年の映画『はりぼて』、2021年に石川テレビ移籍後『裸のムラ』と、地方政治に鋭いメディアを入れた作品で多くの注目を集め、高い評価を得続けている五百旗頭幸男(いおきべ ゆきお)監督が手がけた、劇場公開三作目となる本作。
2024年元日に起きた能登半島地震という自然災害発生後における地方政治の動きにも触れており、非常に多角的で深い視点にてテーマに深く切り込んだ、非常に見ごたえのあるドキュメンタリー作品です。
映画『能登デモクラシー』とは
作品概要

(C)石川テレビ放送
政治ドキュメンタリーを手がけてきた五百旗頭幸男監督が、能登半島の中央に位置する石川県穴水町を取材したドキュメンタリー。
五百旗頭幸男監督は2020年の『はりぼて』を手がけた後に石川テレビに移籍。本作は『裸のムラ』に続く、石川県を舞台に政治の一面を追ったドキュメンタリー作品です。
製作年:2025年(日本映画)
監督:五百旗頭幸男
配給:東風
あらすじ

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地域の人口は7000人を下回り、「人口減少の最終段階」と呼ばれる危機状態に陥っている石川県穴水町。
この地で中学校教諭の務めを果たし、2020年からは手書きの新聞「紡ぐ」を発行し続けている滝井元之さんは、同新聞で利益誘導型の政策や町の未来に警鐘を鳴らし続けてきた。
そして2024年の元日に能登半島地震が発生。穴水町の住人も思わぬ事態に見舞われ、その生活の営みには不安ばかりが浮き彫りとなっていく。
かくして五百旗頭監督は、地域の誰もが触れようとしなかった穴水町最大のタブーを目の当たりにする。
平穏な暮らしの陰に隠れた問題と、より良い生活を求めていくための姿勢

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五百旗頭監督ら石川テレビのクルーたちが役場と町議会のいびつな関係に果敢に向き合い、その実情を浮き彫りにしていく本作。
この物語で大きくクローズアップされているポイントは、慣習的な思想に地域が支配されていることの問題であると考えられます。惰性と忖度がはびこる地域の政治は慣習という魔力が支配し、地域が抱える問題への対応や施策に対し多くの人が疑問を抱えながらも、異議を唱えることはできません。その異議により当人が不利益を被ることはないだろうという想定がありながらも、です。
そして問題の問題たるゆえんは、2024年元日の能登半島地震によって露呈していきます。2011年の東日本大震災以降、日本国内は災害に対する対策を積極的に推し進めてきたにもかかわらず、穴水町の対応は住民を救いたいという意志を見せながらも、どこかちぐはぐな動きを見せてしまいます。
作品で描かれているポイントは、富山市議会の問題に意外なアプローチから深く切り込んだ『はりぼて』を彷彿させるもの。まさに五百旗頭監督ならではの鋭い視点を感じさせるものである一方、地域の政治という点に関しどこか重なるものが感じ取れることでしょう。

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当初、人口減少が顕著であった上に能登半島地震の被害によりその傾向は加速化しており、さまざまなトラブルが後を絶たない穴水町は、問題の論点を非常に強い印象で示しています。その意味ではまさに、本作は穴水町というローカルな場所にスポットを当てた物語でありながら、どこか日本という国の地域政治という点における縮図のようなイメージを想起させるものであります。
『はりぼて』『裸のムラ』、そして本作と、物語の訴求ポイントとしてはどこか一貫したテーマも見えてくる、五百旗頭監督の作品群。一方で、本作に関しては前向きな意向も感じられるポイントが見られます。
それは、穴水町で手書きの新聞により地域政治に異議を唱え続けている滝井元之さんの存在にあります。物語は五百旗頭監督自身の視点のみで描かず、合わせて滝井さんの視点をさまざまなアングルでとらえていますが、その姿からは不条理への批判を唱える姿だけはない、地域でのより良い生活を目指す積極的な姿勢がうかがえます。

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物語では同時に滝井さんの妻と、飼い猫をはじめとした滝井さんを優しく見つめる周囲の目もとらえており、さまざまな問題をシリアスにとらえる一方でポジティブな意向を感じさせるものとなっています。
タイトルにある「デモクラシー」とは、いわゆる「民主主義」を指すもの。この言葉と本作で映し出されるさまざまな場面を照らし合わせると、その思想と現代社会とのギャップなど、「民主主義」という言葉に対する意識に関してさまざまな疑問や課題を考えさせられることでしょう。
そしてその想起させられる論点は、あくまでポジティブな未来を目指すためのヒントのようなものでもあり、政治に直接かかわらない人にとっても「何かをしなければ」と行動を起こしたくなるようなものであるといえるでしょう。
映画『能登デモクラシー』は2025年5月17日(土)より東京・ポレポレ東中野で公開、5月24日より石川・シネモンドほかにて全国順次上映