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映画『ノクターン』 自閉スペクトラム症の男性を中心に描かれた「ポジティブ性」を醸すドキュメンタリー作品|広島国際映画祭2023レポート その4

生きづらさを抱えて
(C)Gwanjo Jeong
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11月23日より26日にわたり、広島にてイベント『広島国際映画祭2023』が開催されました。

この映画祭は2009年に開催された「ダマー映画祭inヒロシマ」を前身として誕生したもので、広島という地で行われることをコンセプトとして「ポジティブな力を持つ作品を、世界から集めた映画祭。」というポリシーを掲げ毎年開催されており、今年は15周年という節目の時を迎えました。

今回はコラムにて、この映画祭で特別招待された作品を、イベントに招待されたゲストによるトークショーのレポートとともに紹介していきたいと思います。

第3回は韓国のチョン・グァンジョ監督による映画『ノクターン』です。

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映画『ノクターン』とは

概要


音楽に秀でた才能を持つ、自閉スペクトラム症(ASD)の男性、彼だけを世話する母。そして彼らとは隔たりのある弟と、特殊な状況にある家族の葛藤と理解の姿を描いたドキュメンタリー映画。

韓国でテレビプロデューサーとしてキャリアを積み上げてきたチョン・グァンジョ監督が作品を手がけました。

あらすじ

(C)Gwanjo Jeong

(広島国際映画祭2023 公式ホームページより)ただ音楽だけが上手で、自閉スペクトラム症(ASD)があるソンホは、母・ミンソがいないと自分で髭を剃ることもできない。母はソンホの音楽に全てを捧げてきたが、弟のコンギはそんな兄を「つまらない役立たず」だと思っている。

しかし時が経つにつれて、兄の音楽は少しずつ光を放ち始める。そして、弟は兄と母の人生に何かを発見する…。

運命と疎外感に直面するある家族の、葛藤と和解を描いた11年間の記録。

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広島国際映画祭2023 チョン・グァンジョ監督 トークショー


作品は11月24日に上映され、公開後には本作を手がけたチョン・グァンジョ監督が登壇、映画製作にまつわる経緯などを語りました。

もともとテレビのドキュメンタリー番組制作にてソンホの家族と出会ったというチョン監督は、ソンホのピアノの音自体に純粋性を感じ、彼のことをもっと知りたくなり、番組制作が終わっても撮影を続けることを決心したと回想します。

一方でその兄が人生に暗い影を落としてしまった印象のある弟コンギ。チョン監督はそのコンギの振る舞いを見ながら「彼もうまくいけばいいのに」と願いながら撮影に向き合ったと振り返ります。

また本作の切り口として、ソンホが幼いころから手をかけてきた母を例に挙げ、社会問題というよりは一種の「ラブストーリー」を想像したと語るチョン監督。「コンギが(一生懸命ソンホの世話をするが、コンギのことは全く目に入らない)母に片思いをする、みたいな。それはどこか心が痛い感じではないでしょうか。また「片思い」って、叶わないほうがロマンチック。そんなポイントが、この映画を動かす力なのではないかと思います」と、テーマに対し自身が感じた思いを明かします。


9~10年にわたって行われたという本作の撮影ですが、チョン監督は「最初はどちらかというと兄に反発していたコンギが、徐々に兄に対して理解を示し始めた」と、あるときに一つの転機を感じ「終わらせてもいいのでは」とこの撮影に区切りをつけたといいます。

その一方で、長い撮影を経る間には「完成しないかも」という衝動にかられ、何度も逃げようとしたと語るチョン監督。

そして「たとえばもっと『社会問題』に意識がある人とか、もっと才能がある人がやるべきじゃないか、と悩むことがありました。でもそのたびに何かの力に引っ張られては、ここに戻って来ていました。

それはたとえば良いドキュメンタリー作品を見たときに『自分もこういった作品を作りたい』と思ったときの気持ちというか。そんな気持ちを持った自分から『まだまだじゃないの?』と言われたような気がしたんです」と、苦労を乗り越えたときの思いを振り返りました。

三人の家族の光景が与えてくれるポジティブな印象


作品はチョン監督が語られたように、非常に強いドラマ性が感じられ、社会的なメッセージを持ちながらもどこか人同士のつながりを意識させられ、気持ちを揺さぶられるような感覚をおぼえるもの。

その根源には、監督が家族と出会い強く興味を惹かれ、映像を撮りたいと考えた、その監督自身が持つ動機にあると考えられます。

結末の予測できないドキュメンタリーの撮影に挑み、ときに悩みながらもその行動を続けられたのは、魅力にあふれた三人の家族に対する強い興味と想いがあるからこそであるといえるでしょう。

2018年には国際的スターであるイ・ビョンホン、ユン・ヨジョンらが出演した韓国映画『それだけが、僕の世界』が公開されましたが、本作はどこかこの物語にも重なるイメージが垣間見られ、「障がい者と生きていくことの難しさ」というテーマよりも「こんな素敵な人たちと生きていくことの豊かさ」といった前向きな印象も見えてきます。

ポジティブな印象を与えてくれる作品であり、この映画祭以外での日本公開を切に期待したいものでもあります。

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