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映画『ミツバチと私』 ジェンダー問題をベースに揺れ動くアイデンディーに悩む人々の生き方を問う物語

生きづらさを抱えて
(C)2023 GARIZA FILMS INICIA FILMS SIRIMIRI FILMS
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フランスとスペインの国境をまたぐバスク地方の美しい自然の中で、自身の揺れ動くアイデンティティーに悩む少年が、自身の生きる道をさまざまに模索していく姿を描いた映画『ミツバチと私』が、2024年1月より日本公開されました。

LGBTQ、ジェンダー問題という社会的課題に対しても強いメッセージ性を感じさせる本作ですが、この物語で興味深いのは、問題に直面する人たちの生きづらさを、第三者などを通した社会的な視点より、むしろ問題に直面した当事者自身の視線を主とし、その人物の内面を描いている点にあります。

世界的にもLGBTQという課題に対する認識が大きく変化している昨今だからこそのポイントでもあり、この課題に対しての本質を深く探った物語であるといえるでしょう。今回はこの作品を、2023年開催の先行上映会に伴い行われたトークショーの模様とともに紹介します。

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映画『ミツバチと私』とは

概要


トランスジェンダーであることに迷う子供と、その子供に寄り添いながらもそれぞれが葛藤を抱え、悩みながらも生きていく家族の姿を描いたヒューマンドラマ。

作品はスペインのエスティバリス・ウレソラ・ソラグレンが長編初挑戦作品として監督・脚本を手がけました。また主演をオーディションで選ばれた新人ソフィア・オテロが担当。彼女は本作で2023年・第73回ベルリン国際映画祭にて史上最年少となる8歳で最優秀主演俳優賞(銀熊賞)を受賞しました。

あらすじ


夏のバカンスでフランスからスペインの祖母の家にやって来た家族。その中の一人、8歳のアイトールは自分の性別に違和感をおぼえ、常に居心地の悪さを抱えて毎日を過ごしています。

母はそんなアイトールを愛しながらも、自身の悩みとともに子供との向き合い方にさまざまな苦労を重ねています。

スペインに到着して数日、アイトールは叔母が営む養蜂場でミツバチの生態を知り、自然とのふれあいを通して自身の束縛を自ら緩め、ありのままで生きていくための道を模索していきたいと、自分の人生を考え始めていくのでした……。

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小川紗良 トークショー


作品は2023年12月16日に都内にて先行上映が行われ、公開後にはゲストとして、文筆家・映像作家・俳優と幅広く活躍する小川紗良さんが登壇、映画の所感などとともに、作品のテーマに対する解釈などを語りました。

2021年に初長編監督『海辺の金魚』を発表した小川さん。この作品も8歳の子供が主人公であっただけに、本作鑑賞には「(自分の作品を)撮影した日々を思い出した」と語ります。

一方、小川さんは映画を作ったことをきっかけに子供のことをもっと知りたいと思い、コロナ禍で自身の活動が制限される中で時間が取れることを利用し保育士資格を取得、クリエイターとして活躍する一方で保育士としての務めも続けています。

その目線より本作の所感を「ジェンダーに対する意識がすごく揺らいでいたりして、自分たちが何者なのかわからない子供たちは時に存在するのですが、彼らにとって大切なのは、そういった光景に出くわした大人たちにどう向き合ってもらっていくのか、というところだと思うんです。

(この作品を見たことで)世の中には知らず知らずのうちに子供が浴びてしまっている『ジェンダー規範』みたいなものがあふれていて、あいまいなものを抱えている子にはすごくつらいし、(そんな思いが自分にあり、それこそが周囲の人に)受け止めてほしい部分なんだよな、ということを改めて思いました」と語ります。


またトークではこの「大人としての向き合い方」というポイントに言及。

小川さんは、近年の保育の現場の傾向としてたとえば男の子、女の子それぞれが好む色の傾向のような、「ジェンダー規範」的なイメージをできるだけ排除し、子供たちに対して広い選択肢を与えるような意識が広がりを見せる傾向があることを明かし、合わせて「子供のいる世界は保育の現場だけでなく、家庭や広い社会というものがあり、そこから浴びるものもすごく大きいと思うので、社会全体が子供たちに対して、どれだけ広い選択肢を与えられるかということも重要だと思います」とコメント。

その一方本作における印象として、アイトールという存在のおかげで物語中の家族親戚全員がさまざまなことを考え団結していく姿が印象的だったと振りかえり「ジェンダーについての揺れを感じている子供と向き合うということは、大人たちにいい影響を与えてくれる、という話を聞いたことがあります。大人の視野を広げて、別の繋がりを持たせてくれる。その意味で確かにいい機会であり、このような子供の存在は大切なのではないかと思うんです」と語ります。

その上で本作に対し「主人公の周りの人たちが、本当に主人公と同じくらい、あるいはそれ以上に葛藤しながら(この子のことを)受け止めようとしている。(その姿から)私たちは子供たちとどう向き合うべきか、という課題をすごく提示してくれる作品だったと思いました」と、本作から受け取ったメッセージに対する思いを語りました。

「今を生きることに悩む」人たちに響くメッセージ性

(C)2023 GARIZA FILMS INICIA FILMS SIRIMIRI FILMS

劇中に登場する主人公アイトールは髪が長く、ココ(スペイン語で「坊や」といったイメージの名)と呼ばれることを拒み、どちらかというと女の子の友達のそばに居たがるような子供。物語はそんな一人の子供が、さまざまな人々のはざまで「自分がなりたいと願う姿」を悩みながら模索する姿が描かれます。

この人物設定からはLGBTQ、トランスジェンダーといった、性について社会に介在するさまざまな課題に言及したテーマが見えてきますが、物語としてはもっと広いテーマを扱っているようでもあります

性別として『女性』の方がしっくりときそうだけど、悩みはそれだけではない。自分のなりたい姿を具体的に思い描けてはいないけど、世間の常識からいわれいることはまるで「あなたが目指すべき未来はこう」「こんな風に成長すべきだ」と押し付けられているみたい、しかもその姿は、どうもなりたい自分の姿からは遠くかけ離れているようにも見える……。

この物語ではその「遠くかけ離れた世界」を一般的な世間体というイメージで、アイトールとは少し離れた場所に置くことで敢えてその存在感を強調して表現し、悩ませる要因として描いています。

またテーマのイメージを膨らませる要素は、アイトールの母の境遇にも見られます。

(C)2023 GARIZA FILMS INICIA FILMS SIRIMIRI FILMS

芸術家の父を持ち、自身もその素養を持ちながらも、自身の母や夫ら大事な人たちからは自分が信じる道を認めてもらえない母。その苦しさを自身のバックグラウンドとして持つ母は、どちらかというとアイトールの気持ちを支持しますが、それはまさしく自身にアイトールの気持ちと共通するものがあるからこそという意向も見えてきます。

トークショーで小川さんは、自身のアイデンティーに対して揺れる気持ちを持っている子に対しての接し方について「どれだけ大人が(その子のことを)受け止められる言葉をかけてあげられるか」を考えることが大切であると語られました。劇中におけるアイトールの母の立ち位置は、この意味においてまさに重要な要素を持っているものであるといえます。

一方、この作品は物語が提示するさまざまな社会課題に対し、何らかの結論やあるべき論を唱えるというものではないという方向性も見受けられます。

もちろんLGBTQをはじめとしたジェンダーの課題など、より良い社会生活を目指すための指針、目標を打ち立てる活動はあるでしょう。しかし本作にもそういった要素が垣間見られる一方、アイトールが思い悩む時間それぞれにも、良し悪しという二極性で収めきれない、複雑かつ重要な要素があるように感じられます。

その意味でこの物語には、単に「性の問題について関心がある人向け」といった一面性にとどまらず、今を生きることに悩むすべての人に響く要素がある作品であるといえるでしょう。

映画『

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』は2024年1月5日より新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開

 

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