前回は、障害者手帳を持っていない発達障害者でも利用できる、公的な就労支援制度「発達障害者雇用トータルサポーター」をご紹介しました。
今回は、試行的に雇用されることで常用雇用を目指す「障害者トライアル雇用制度」について解説します。障害者手帳を持っていない発達障害者でも利用できる条件が含まれていますので、就職活動で行き詰まっている発達障害のかたは、参考にしてみてください。
制度の概要
制度の目的
原則3~6か月間(条件によっては12か月間)の試行雇用を通じて、企業との間で相互理解を深め、お互いの不安を解消することで、障害のある方の継続雇用をめざす制度。
トライアル雇用期間後に常用雇用へ移行するのが最終目的。
助成金の支給
企業側はトライアル雇用期間中、最大3~12か月間、助成金を受けることができます。
労働者側は企業から賃金が支給されます(基本、最低賃金額以上)。
労働時間数、利用可能な対象者によって2コースあり
「障害者トライアルコース」と「障害者短時間トライアルコース」の2つがあります。
それぞれの違いについては、次の章で解説します。
トライアル雇用中の雇用保険加入
雇用保険の加入要件は、次のようになっています。
次の要件をともに満たせば、「パート」や「アルバイト」という名称、事業主や労働者の希望の有無にかかわらず、被保険者として加入していただく必要があります。(暫定任意適用事業を除く)
(1) 1週間の所定労働時間が20時間以上であること。
(2) 31日以上の雇用見込みがあること。
よって、トライアル雇用期間中も「障害者トライアルコース」のほうは、雇用保険に加入できます。
万が一、トライアル雇用から常用雇用にならなかったとしても、雇用保険を掛けた期間は違う職歴の被保険者期間と通算して失業給付を受けられる場合もあります(通算の条件はハローワーク雇用保険給付課でご確認ください)。
トライアル雇用期間が満了したら
「常用雇用(期間の定めがない)へ移行」か、「トライアル期間で契約満了」か、のどちらかになります。
企業側が常用雇用へ移行させるか否かを判断しますが、当然のことながら労働者側から契約終了を申し出ても構いません。
障害者トライアル制度概要をもっと詳しく知りたいかたは以下の参考リンクをご覧ください。
障害者トライアルコース
利用期間
原則、最大3か月間(3か月間より早く打ち切って常用雇用へ移行も可)。
精神障害者のかたは、原則6か月間、最大12か月間まで利用可。
所定労働時間
週20時間以上。
常用雇用へ移行後は、週20時間以上であれば30時間でも40時間でも労使の合意があれば自由。
対象者
利用できる対象者は、以下のように記載されています。
「障害者の雇用の促進等に関する法律第2条第1号」に規定する障害者のうち、次のア~エのいずれかに該当する者が対象です。
ア.紹介日において就労(※2)の経験のない職業(※3)に就くことを希望する者
※2 パート・アルバイト等を含み、学校在学中のパート・アルバイト等を除きます。
※3 厚生労働省職業安定局編職業分類の小分類の職業の単位で考えます。
イ.紹介日前2年以内に、離職が2回以上または転職が2回以上ある者
ウ.紹介日前において離職している期間(※4)が6か月を超えている者
※4 パート・アルバイト等を含め、一切の就労をしていないことをいいます。
エ.重度身体障害者、重度知的障害者、精神障害者(手帳所持又は統合失調症、そううつ病、てんかんの診断がある)(厚生労働省HPより)
ちなみに、「障害者の雇用の促進等に関する法律第2条第1号」に規定する障害者とは、
身体障害、知的障害又は精神障害(以下「障害」と総称する。)があるため、長期にわたり、職業生活に相当の制限を受け、又は職業生活を営むことが著しく困難な者。
と書かれていますが、具体的には以下の範囲です。
身体障害者、知的障害者、精神障害者(手帳所持又は統合失調症、そううつ病、てんかんの診断がある)、発達障害者、難治性疾患患者等
整理しますと、「障害者トライアルコース」を利用できる発達障害者とは…
- 精神障害者手帳を持つ発達障害者は、上記のエに該当するためア~ウ要件は満たしていなくても構いません。
- 精神障害者手帳を持たない発達障害者がこのコースを利用するには、上記のア~ウのいずれかに該当する必要があります。
障害者短時間トライアルコース
利用期間
3か月間~12か月間(3か月間より早く打ち切って常用雇用へ移行も可)。
所定労働時間
週10時間以上20時間未満。
週20時間以上だと心身ともに難しい人には、こちらのコースが適しています。
常用雇用へ移行後は、週20時間以上になることを目指す。
対象者
精神障害者(手帳所持又は統合失調症、そううつ病、てんかんの診断がある)または発達障害者。
つまり精神障害者手帳を持っていても、持っていなくても、発達障害者の診断を受けていればこのコースの利用が可能ということです。
結果的にはメリットが大きい制度
試用期間とは違う
一般的にどの企業でも「試用期間」が設けられていることが多いですが、「試用期間」という名称であっても本当は企業側は自由に試用期間までで簡単に労働者を切ることはできません。
試用期間というものは労働基準法的には明確な定めがなく、企業側が勝手に作ったものであり、企業側都合で切る場合、本当は解雇にあたります。
解雇する場合には正当な理由が必要なこと、そして30日前に解雇予告を行うか予告を行わない場合には30日分の解雇予告手当を支払う必要があります。
それを知らない労働者は多く、試用期間で切られても仕方がないんだと思い込んでいるケースがあったり、それをいいことに企業側も試用期間で簡単に切ったりしていますが、本来は間違っています。
トライアル雇用は「試用期間」ではなく、1か月単位の期間雇用です。トライアル期間中だけで終了しても、解雇にはあたりません。
試しに雇いやすい
つまりトライアル雇用は、解雇の制約を気にする必要が無いため、正式採用を迷っている対象者(障害者)を実際にお試しで雇って適性を見てみよう、と採用のハードルが低くなるというメリットがあります。
障害者雇用がそれほど大変なことではないと企業に理解してもらう良い機会なのです。
もちろん、制度を企業が乱用できないよう、制限する要件も盛り込まれています。
過去3年以内に他の労働者を障害者トライアルで継続雇用しなかった人数が3人を超えるなどした場合には、この制度は使えないとなっています。
約8割は常用雇用へ移行
平成28年度の統計では、86.1%の利用者が継続雇用につながっているとされています。
障害の種類や、利用者それぞれで状況が違いますから、この数字だけで多い少ないと安易に語ることはできませんが、トライアル期間を通じて、障害者雇用が想定より大変すぎるものでもないと企業に知ってもらうには効果的な制度だと私は考えています。
頭で考えているだけよりも、実際に一緒に働いて、障害がある人の人柄、特性を知ってもらうことが何よりの障害者理解につながるからです。
ミスマッチ防止
求職者側も、企業の職場環境や人間関係を確認でき、自分にこの仕事が向いているか考えるための良い試行期間になります。
正式採用前に企業と労働者、お互いが見極めあう。それがその後の安定した就労につながることを期待する制度なのです。
最後に
今記事では、発達障害があるかたが手帳を有しているか否かによって、使える制度がどのように変わるかに有無に焦点を置いて書かせていただきましたので、大まかな解説となりましたが、手帳の有無以外にも求職者側、企業輪に必要な要件が他にも色々とあります。
詳細は必ずハローワークに確認してください。
次回は、ハローワークインターネットサービスで、トライアル雇用求人を探す方法について解説していきたいと思います。