映画『ブルーボーイ事件』が公開されます。
過去の日本で実際に起こった事件をモチーフに、現代的な「生きづらさ」の観点から問題の争点を問う映画「ブルーボーイ事件」が公開されます。
「ブルーボーイ事件」とは、「十分な診察をおこなわずに性別適合手術(当時は性転換手術と呼ばれた)をおこなった」とされる産婦人科医師が、1965年に麻薬取締法違反と優生保護法(現在の母体保護法)違反により逮捕された事件。
記録としては当時告訴された医師は有罪判決を受けた事実が伝えられている一方で、LGBTQ+などの現代的な視点からはさまざまな論点が見いだされる本作。作品を手掛けた飯塚花笑監督をはじめ実際のトランスジェンダーを俳優として起用し、物語で繰り広げられる論争の光景を通して事件の核心に迫ります。
映画『ブルーボーイ事件』とは
作品概要

(C)2025「ブルーボーイ事件」製作委員会
高度経済成長期の日本で実際に起きたといわれている「ブルーボーイ事件」をモチーフとして、裁判の焦点となった「性別適合手術の違法性」をめぐり争いに向き合っていく人々の姿を描きます。
作品を手掛けたのは、トランスジェンダーであるというアイデンティティを反映させた作風で国内外から注目を集める飯塚花笑監督。『フタリノセカイ』「世界は僕らに気づかない」などで高い評価を得ています。
主演を務めたのは、本作がデビューとなる中川未悠。かつてドキュメンタリー映画「女になる」に出演、本作ではトランスジェンダー女性を集めたオーディションが実施され採用となりました。共演には錦戸亮、前原滉、安井順平、山中崇ら実力派俳優のほかにドラァグクイーンのイズミ・セクシー、シンガーソングライター・俳優の中村中らトランスジェンダーを含めた個性的な面々が名を連ねています。
製作年:2025年(日本映画)
監督・共同脚本:飯塚花笑
出演:中川未悠、前原滉、中村中、イズミ・セクシー、真田怜臣、六川裕史、泰平、渋川清彦、井上肇、安藤聖、岩谷健司、梅沢昌代、山中崇、安井順平、錦戸亮ほか
配給:日活、KDDI
あらすじ

(C)2025「ブルーボーイ事件」製作委員会
東京オリンピックの影響で好景気に沸いた1965年の東京。街の国際化に伴う売春が問題視され、警察はその取り締まりを強化していました。しかしその一方で、性別適合手術を受けた「ブルーボーイ」と呼ばれる存在への対応が大きな壁となっていました。
戸籍は男性のまま女性となり売春をする「彼女」たち。その存在は、現行の売春防止法では摘発対象とすることができない。そのため警察は、生殖を不能にする手術が「優生保護法」に違反するとして、ブルーボーイたちに手術を施した医師・赤城を逮捕、告訴するという手段に出ます。
その一方で、東京の喫茶店で働き、恋人にプロポーズされ幸せの絶頂にいた女性・サチがいました。彼女はかつて赤城による性別適合手術を受けた過去が。
そしてある日、赤城の弁護を担当する弁護士・狩野がサチのもとを訪れ、赤城の裁判に証人として出廷してほしいと依頼されますが……。
過去の話で終わらせない。「普通」を押し付けた時代の重さ

(C)2025「ブルーボーイ事件」製作委員会
本作の舞台はLGBTQ+などといった個人の多様性が、まだ社会的にほとんど認められていなかった時代の日本。この頃は今よりも遥かに多くの人が生きづらさを抱え、社会の隅に追いやられていました。
この作品では、そんな困難な時代の中で「ありのままの自分」を証明しようと、あえて立ち上がった当事者たちの姿が描かれます。彼らの視点を通して見る当時の閉鎖的な社会の光景は、胸が締め付けられるほど鮮烈です。
なぜ彼らは社会から認められなかったのか? その根底には、「子供はまじめに育てれば、普通にいい子に育つ」という古い慣習や、画一的な価値観を強要する固定観念が深く残っていたためと考えられます。
多様な個性を排除し、集団としての「均一性」を求めようとした当時の日本社会は、自由な思想を抑圧する重苦しい空気に満ちていました。物語で描かれるその光景には、ある意味戦後ながら「戦争があったことを肯定している」人たちがいたのではないか?と思えるほどの、偏った思想を感じさせる傾向が見えてきます。
自分自身を守るための戦いに挑んだ主人公サチの表情は辛辣で悲しく、その強い眼差しは「自分らしさ」を守り抜くことの難しさ、社会という巨大なプレッシャーと一人で対峙することの厳しさを、私たちに真摯に訴えかけてきます。
無意識の差別と向き合う「終わりなき戦い」

(C)2025「ブルーボーイ事件」製作委員会
この物語には、「古い時代の話」として片付けられるものではないという印象をおぼえます。LGBTQ+などの社会課題は少しずつ認められつつある現代でさえ、差別的な意識や無理解は根深く残っています。
人々の持つ意識や価値観の違いは常に存在するため、主人公が挑んだ戦いは、形を変えながらも「終わりなき戦い」として今もなお続いているのが実情であり、ある意味この問題における戦いはいつまでも続くといえるでしょう。
一方、この映画を観て、80年代の「お笑い」のシーンを思い出しました。当時、テレビなどのメディアでは「オカマ」「ゲイ」といったテーマが、なんの配慮もなく軽率なネタとして消費されていました。この物語に登場する「ブルーボーイ」たち、生きづらさに悩んでいた「女性」たちの姿には、見かけはどこかそのお笑いを彷彿しながらも、芯には辛辣な思いを抱えていたことが浮き彫りにされています。
正直何も考えずにあの「お笑い」を見て笑っていた自分自身が、今改めて恥ずかしいとさえ思えてきます。本作はかつて無意識のうちに差別を助長する空気の一部であったかもしれない私たち自身に「あなたは大丈夫ですか?」と問いかけてくるようでもあります。
自分の中にある「普通」の枠組みと向き合うためにも、ぜひ多くの人に見ていただきたい作品です。
映画『ブルーボーイ事件』は2025年11月14日(金)より全国順次上映

