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映画『ナチ刑法175条』ナチス・ドイツの同性愛迫害の歴史よりLGBTQ+の壁を考えさせられるドキュメンタリー

生きづらさを抱えて
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かつてドイツで施行されていた、同性愛を禁じる法律「刑法175条」を題材に、その制度が生んださまざまな恐怖を追ったドキュメンタリー映画『ナチ刑法175条』が、2024年3月24日より日本公開されます。

LGBTQ+課題がさまざまに叫ばれる昨今において、「同性愛を禁じる」という指向は衝撃的なテーマであり、社会課題の解決策を考えていくにあたり障壁となる要素として、この指向に含まれる思想や傾向は、大きな要因となる可能性をはらんでいるといえるでしょう。

加えてドイツという国と同性愛という関係にも触れている本作。さらに合わせてナチス・ドイツが徹底的に迫害を進めたユダヤ人弾圧との関係など多角的な視点でこのポイントに深く切り込んでおり、非常に興味深い作品として仕上がっています。今回はこの作品の概要を紹介するとともに、作品のテーマが示す最も大切なポイントを考えてみたいと思います。

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映画『ナチ刑法175条』とは

概要


1984年の映画『ハーヴェイ・ミルク』でアカデミー長編ドキュメンタリー賞を受賞したロブ・エプスタインと、同作のスタッフを務めたジェフリー・フリードマンが共同で監督を務めたドキュメンタリー映画。ナレーションをイギリス人俳優ルパート・エベレットが担当しています。

作品は2000年の第50回ベルリン国際映画祭で最優秀記録映画賞と審査員特別賞を受賞するなど、世界各地で数々の映画賞を獲得、そして2024年3月、デジタルリマスターが行われた最新版が劇場公開されます。

あらすじ


「刑法175条」はドイツにて1871年に制定され、1994年に撤廃されるまで、120年以上にわたって存在した「同性愛を禁止する」法律。

特にナチスドイツ支配下で男性の同性愛者は激しく弾圧され、同法によって捕まった約10万人のうち1万から1万5000人が強制収容所へ送られ、強制労働や医学実験を強いられました。

その結果生き残った者は約4000人、さらに本作の製作における調査で生存を確認できたのは、10人に満たなかったといいます。

本作ではその10人における六人のゲイと一人のレズビアンによる証言より、彼らがたどった凄惨な事実に迫っていきます。

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同性愛の権利に対する課題を考えさせられるポイント


非常に興味深いのが、「ドイツと同性愛文化」という趣旨をつづっている本作の前半部分。

近代では1979年よりベルリンで開催されているChristopher Street Day (CSD:LGBTQ+の人々の権利獲得や差別、排除の反対のためにヨーロッパのさまざまな都市で開催される毎年恒例の祭典およびデモ)など、LGBTQ+への関心が非常に深い国の一つといえるドイツ。

一方、その同性愛行為(主として男性同性愛行為)を禁止する目的で1871年にドイツの刑法175条が制定されました。

当初はその法律が施行されながらも、それほど厳しい取り締まりがあったわけではなく、ベルリンではそれぞれに同性愛文化を満喫する空気があったことが証言者たちより語られます。

そして中盤から後半にかけてナチス・ドイツの台頭とともに変化していく情勢により同性愛者たちがたどった悲惨な人生の道筋か示されるわけです。


注目すべきは「なぜ同性愛者たちを激しく弾圧したか」という点が、ナチス・ドイツにとって国の統制を取る際に「脅威となる」と認識される風潮があった、という風に示されている点にあります。

具体的に弾圧された根拠は「刑法175条」に文面として示されているわけですが、そこで伝えられる内容はやはり「なぜ同性愛が禁止されるべきか」という根拠に乏しいもの。この作品はあくまでこの時代の同性愛の扱いに対して利害という視点でどのような対立があったかという点に言及しているようです。

現代のLGBTQ+問題を考える上で、常に注意を払わなければならない重要なポイントを描いている作品であるといえるでしょう。

もちろん迫害を受けた当人たちに利害などという認識はなく、なすすべもなく追いやられ、多くの人が命を落とすという悲惨な事態となったわけであります。

証言者たちは、あるものはその不条理さに思い出したように憤慨し、また別のものはホラー映画のような恐怖の瞬間を思い出し、口をくぐもらせ目には涙を浮かべたりと、この問題が今なおさまざまなシーンにおいて影を落としていることを考えさせるものとなっています。

ちなみに同性愛的なテーマを扱ったドラマとしては2007年のドイツ映画『4分間のピアニスト』があります。

これは刑務所に収監された一人の女性と、慈善活動として囚人にピアノを教えるピアノ教師との出会いを描いたもの。ピアノ教師はかつて戦時中に女性との関係を持ちながらも、当時の風潮でそのことを表に出せないままに年老いたというバックグラウンドがあり、囚人とのやり取りでこの背景が大きく関係する箇所もあります。

本作と合わせてご覧になれば、さらにこの同性愛というテーマと「刑法175条」における人同士の対立に関する理解をより深めることができるでしょう。

映画『ナチ刑法175条』は2024年3月24日より新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開

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