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肩書はいらない本音で話せ|F著【20代で得た知見】を読んで

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本屋で立ち読みして、作者も、値札もろくに見ないまま、小走りでレジに持っていた本。心に残るのは、名もなき言葉の数々であり、忘れがたいのは大切なあの人の横顔と独り言。

働きづらさを抱えつつ、なんとか会社員をしている、お喋りなイラストレーター夜くまによるエッセイ連載「繊細とゴキゲンのすきま」、第3話です。
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人生の迷子になると本屋に行く

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一人の人間の人生は、出会った言葉でも、預金額で決まるとも、恋愛だの結婚で決まるとも思えない。

ある夜友人が電話で語ってくれた台詞、または恋人がふとした瞬間吐き捨てた台詞、バーで隣の男が語ってくれた一夜限りの話、なんの救いもない都会の景色、あるいは、夜道で雨のように己の全身を貫いた、言葉にもならない気づき。そういったものによって人生は決定されたように思うのです。

私はその断片を「二十代で得た知見」と名づけることにしました。

(F著『20代で得た知見』Amazon公式サイトより)

私がこの本を手にしたのは、なんだか仕事が楽しくなくて、何となく「あーもう辞めちゃおうかな」なんてぼんやり考えながら立ち寄った本屋。

私はやっぱりAmazonの「あなたにおすすめ」という、無機質なアルゴリズムよりも、

リアル書店で、店員さんが、平積みやらPOPやらで、その向こう側に人間の気配を感じる売り場が好きだった。

人生に悩むと、本をどさどさと鬼買いする衝動癖がある。昔から。

最初は高校生くらいの頃だっただろうか。

受験勉強がイヤすぎて、予備校の冬期講習を1人でサボって、本屋で立ち読みした「広告コピー傑作集」で、泣いたりしていた。

『自分の夢まで、自己採点しないでください。』

河合塾・新聞広告

 これは、いつかのセンター試験の翌日、解答速報が載っている新聞の全面広告のフレーズらしい。

勉強してないくせに、感動した。

我ながら、素直というか、単純というか。

こんな、私のダメ受験生エピソードは、さておき。

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何者かなんてどうでもいいよ

社会人になった今も、大人のフリが全然上手にできない人間なので、

やっぱり本屋にフラフラを足を運んだわけである。

この本を会社の休憩時間に読んでたら、隣のシニアな先輩から、

「それ誰の本?」と聞かれた。

「これ、Twitterで人気のFって人が書いた本で、人気なんですよ」

「へぇ。誰か分からない人の本でも若い人は読むものなんだね」

このやりとりが妙に心に残った。

そして、別のある時、他部署に入ってきた新卒が、やはりシニアな先輩に、

ささいなメールのやりとりで、少し叱られたらしいという話を聞き、

ランチで一緒になった時、若い彼に

「あーこの職場では、残念ながら、何を言うかよりも、誰が言うかが、けっこう重視されてしまうから、とりあえず新人の間は低姿勢に、丁寧なやりとりをした方が無難だよ」

と、先輩風を吹かしてみた。びゅーびゅーである。

自由と不自由を行ったりきたり

そしたら、後でじわじわと、「こんな自分、めっちゃダサいな、いやだな」と反省した。

社内政治だとか、年功序列、肩書や役職のしがらみに、うんざりしているはずなのに、

知らない間にこんなにも脳みそが染まっているじゃないか。

その点、ネットの世界は自由だ。匿名は身軽だ。

「なんか好き」それだけがすべてだ。理由も根拠も、後付けで十分だ。

でも、ネットの世界でも、いいねの数とか、「何者であるか」に縛られてしまう自分もいて、

なかなかどうして不自由で。

偉い話も、立派な話も、私が聞きたいのは、そんなものじゃなくて

オチのない、君の「今日、嬉しかった話」

リアル世界ではきっと一生会わない、見知らぬ誰かの、

「あなたの作品が好きなんです」という熱のこもった一言のコメント

大人になった今、母が楽しそうに話しかけてくる、

親子じゃなくて、友達同士みたいな雑談。

父の「お前が酒をついでくれる日がくるとはな」という独り言

ばっくれた冬期講習、覚えているのはテキストの内容ではなく、

先生の昔の武勇伝だったり、最近、スナックのお姉さんに失恋した話。

そんな言葉の粒が、どうしてか、こんなにも大切だ。

宝物みたいに、こっそりと話したい

違うんだ。全然、違うんだよ。

誰が話すのか、ではないんだよ。

そのまんまお腹の中から取り出したような、素の言葉が嬉しいんだよ。

学生時代、横断歩道で信号待ちをしながら、思ったことがある。

「私の心の中で、大事に抱きしめている、言葉や思い出は、

もし、私がしんじゃったら、誰にも知られずに、消えちゃうんだな」

言葉、思い出、記憶、感情。

素朴で、ささやかであればあるほど、それはあっという間に、

風に吹かれて、消えてしまうから。

こんなにも、忘れたくないと思っている記憶の断片たちが、

誰とも分かち合えずに、忘れられてしまうなんて、悲しいなって思ったんだ。

本当に大切な思い出は、誰でもない、特別なあなたに、こっそりと伝えよう。

最初に思い浮かんだ、あの人、あなた。

まるで何でもないことかのように、素直に、シンプルに、ぽそっと。

きっと思いは、連鎖していくものだから。

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