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映画『PERFECT DAYS』 役所広司がカンヌ受賞やヴィム・ヴェンダースとの撮影を振り返る|『第8回 尾道映画祭 2025』レポート

『尾道映画祭2025』役所広司 ライフワーク
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1月24日より3日間にわたり、広島・尾道にてイベント『第8回 尾道映画祭 2025』が開催されました。

尾道は、古くは小津安二郎の『東京物語』など、数々の名作を生んだロケ地であり、日本を代表する故・大林宣彦監督の生まれ故郷でもあり、大林監督が生前「尾道三部作」「新尾道三部作」をはじめとした地に由来のある作品を輩出したことから「映画の街」としても知られています。

『尾道映画祭』は、そんな尾道で2017年より開催。2020年はコロナ禍の発生に伴い一時中断しましたが2021年に制限を設けながら開催し、今回で第8回の開催を迎えました。イベントは多くのスケジュールの中で満員御礼となり、尾道、映画というキーワードで多くの人より関心を持たれていることをうかがわせます。

今回はこの映画祭で特別招待された作品を、イベントに招待されたゲストによるトークショーのレポートとともに紹介したいと思います。紹介する映画は、ドイツのヴィム・ヴンダース監督による『PERFECT DAYS』。ゲストには主演を務めた俳優の役所広司が登壇しました。

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映画『PERFECT DAYS』とは

概要

(C)2023 MASTER MIND Ltd.

東京・渋谷を舞台にトイレの清掃員の男が送る日々における小さな心の揺らぎを描いたドラマ。『パリ、テキサス』『ベルリン・天使の詩』などを手がけた世界的な名匠ヴィム・ヴェンダースが監督を務めました。

作品は「東京・渋谷区内17カ所の公共トイレを、世界的な建築家やクリエイターが改修する」というテーマで2018年より始まった『THE TOKYO TOILET プロジェクト』に賛同したベンダース監督が、東京、渋谷の街、そして同プロジェクトで改修された公共トイレを舞台に作品を描いています。

主演を日本を代表する俳優・役所広司が担当、2023年・第76回カンヌ国際映画祭コンペティション部門で、日本人俳優としては『誰も知らない』の柳楽優弥以来19年ぶり2人目となる男優賞を受賞しました。

またカンヌ国際映画祭では男優賞とあわせ、「人間の内面を豊かに描いた作品」としてキリスト教関連の団体より贈られるエキュメニカル審査員賞も受賞、さらに第96回アカデミー賞の国際長編映画賞にノミネートされるなど、世界的にも大きな注目を浴びました。

共演に新人・中野有紗のほか、田中泯、柄本時生、石川さゆり、三浦友和ら個性あふれる役者陣が名を連ねています。

あらすじ

東京のとあるアパートに一人で暮らし、渋谷でトイレの清掃員として働く平山。一見代わり映えのない毎日は、彼にとって常に小さいながら新鮮な喜びに満ちあふれていました。

車のオーディオで昔から音楽をカセットテープで聴き続けること、行きつけの酒場に入り浸ること、そして休日のたびに通い手に入れる古本の文庫を読むこと。そんな些細なことを楽しみ、ゆったりとした日々を過ごします。

そして木が好きな平山はいつも小さなフィルムカメラを持ち歩き、自身を重ねるかのように木漏れ日の写真を撮り、時には芽生え始めた木の芽を持ち帰ったりと、彼には充実した毎日が続きます。

そんなある日、彼は思いがけない人に遭遇、この時をきっかけに物語は、彼の過去を徐々に紐解いていくのでした。

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『第8回 尾道映画祭 2025』 役所広司トークショー


作品は1月25日に上映され、公開後には主人公・平山役を務めた役所広司が動員数680人、満席となった会場より大きな拍手で迎えられ登場しました。そして登壇後には、巨匠ヴィム・ヴェンダース監督との映画製作にまつわる経緯などを語りました。

役所が演じた主人公・平山は、冒頭よりほとんどセリフもないままにさまざまな人物背景を想起させる特徴的な役柄。当初ヴェンダース監督らから受け取った脚本も「誌的で美しい文章が描かれていたが、どちらかというと『脚本』らしくない」という印象を持ったと語りながら、「とにかくよどみなく演じられるように」とトイレの清掃テクニックをプロの清掃員より徹底的に習っていたと振り返ります。

撮影現場はやはりヴェンダース監督作品の熱烈なファンであるスタッフが多く集まった現場であったことを回想し、その中でヴェンダース監督が「映画を教える先生のような雰囲気を持つ監督でした」と、自身が感じた「あこがれの監督」的なヴェンダース監督の人物像を語ります。

尾道を舞台とした映画への出演に関しても、「ラーメン屋の店主みたいな役でもいいから」と笑いを誘いながらも興味を示す様子の役所。またこの街の印象について「(同じ広島県の)呉もそうですが、本当に『画になるまち』。坂があって、そこに人が一人立っているだけで素晴らしい背景になりますし、いろんな映画監督がロケをされた意味がよくわかります」と語ります。

またこの日はカンヌ映画祭の受賞の時についても回想。「受賞した時にはまさかと思いました。監督が泣きながら喜んでくれた時にはとても感動しました」とその時の様子を語ります。

一方でレッドカーペットを歩く際に偶然、映画『戦場のメリークリスマス』のテーマ曲が流れ「坂本(龍一)さんも見ていてくれたのかと」と、2023年に亡くなられた故人への思いをはせていたことを振り返りました。

一人の男性の視点より「平穏に生きること」を的確に描く

本作の最も印象の強いポイントとしては、やはり役所広司が演じる主人公・平山の人物像に尽きるでしょう。

セリフらしいセリフもなく、ただ東京都内のトイレを巡回、清掃し慎ましく生きる一人の男性の様から物語が始まる本作。彼の素性は物語が進んでいくうちに徐々に見えてきますが、最終的にハッキリした背景は描かれません。それでも彼の人物像には、見る者が強く引かれる性質が見られます。

彼はせわしなく動いていく周辺の人たちとは関係なく、黙々と仕事を続けるわけですが、その街の中でわずかな瞬間における人とのつながりに、静かに微笑みます。かすかなふれあいで偶然すれ違った子供が手を振ってくれた、そんなわずかなふれあいに喜びを見出しているようでもあります。

いわゆる「底辺で生活する人」などとも言われるような生活をしている平山ですが、ある意味そのささやかな生活は、人が生きる上で幸せを享受できる基準を示してくれているようにも見えてくるわけです。

本作の最後には、モノクロで「木漏れ日(こもれび)」の光景が映し出され、その説明がテロップで表示されます。ヴェンダース監督はこの日本独特の表現でもあるこの「木漏れ日」というものに対して、非常に強い印象を持ったことをうかがわせており、平山の日常における「幸せを感じる」世界観はこの「木漏れ日」の様とダブって見えてくるようでもあります。

反面、物語の後半では徐々に平山の口数が増えるとともに、前半では見られなかった彼の背景、真実のようなものが見えてきます。

そこには単にうわべだけ「慎ましく生きればわずかな喜びで幸福を感じられる」といったような薄いメッセージを、完全に払しょくしてしまうような、厳しさを見せる意向も感じられます。

平凡な一人の男性が日常の中で、さまざまに出会いと別れを繰り返していく。単純に見ればそんな物語でありながら、役所広司が演じる平山の表情は非常に感情が豊かで、展開により人物背景のさまざまな要素を鮮やかに、バラエティーに富んだ表現をしていきます。

物語のラストで見せる、笑顔とも泣き顔も見られる「なんとも表現しがたい」表情の数々は、ある意味物語の核心を描いているものと見ることもできます。

ヴェンダース監督作品からは『ベルリン、天使の歌』の守護天使ダミエルや、『パリ、テキサス』のトラヴィスといった特徴的な主人公象が生み出されてきましたが、本作の平山という一人の男性の姿もまた非常に鮮烈で、忘れがたい印象をたたえたキャラクターであるといえるでしょう。

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