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映画『テイク・ミー・サムウェア・ナイス』 思春期の複雑な感情×複雑なルーツを絡めて描いた「自分探し」ストーリー

生きづらさを抱えて
(C)2019(PUPKIN)
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生き別れた父をめぐる旅の風景から、一人の少女の「自分探し」を描いた映画『テイク・ミー・サムウェア・ナイス』が公開されます。

ボスニア・ヘルツェゴビナ出身でオランダ育ちという境遇を持つエナ・センディヤレビッチ監督が手がけたこの作品。ある意味私小説的なテーマの中で成長やアイデンティティーといった課題に独特のアプローチで切り込んだ、さまざまな思い、気持ちを想起させる物語であります。

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映画『テイク・ミー・サムウェア・ナイス』とは

作品概要

(C)2019(PUPKIN)

幼い頃に別れた父を訪ねてボスニアへ向かう少女と、彼女の旅の道連れとなる2人の青年の姿を印象的に描いたロードムービー。

ボスニア・ヘルツェゴビナ出身のエナ・センディヤレビッチ監督による長編デビュー作で、作品は、2019年・第48回ロッテルダム国際映画祭にてタイガーアワード特別賞を受賞しました。

製作年:2019年(オランダ・ボスニア合作映画)
原題:Take Me Somewhere Nice
監督・脚本:エナ・センディヤレビッチ
出演:サラ・ルナ・ゾリッチ、エルナド・プルニャボラツ、ラザ・ドラゴイェビッチほか
配給:クレプスキュールフィルム

あらすじ

(C)2019(PUPKIN)

オランダで生活するボスニア人の少女アルマ。一家は戦火を逃れオランダで暮らしていましたが、父はその後アルマと母を置いてボスニアへ戻り、離ればなれとなっていました。

ところがある日、アルマらのもとに父が入院したという知らせが。そしてアルマは、母に言われるがままに単身ボスニアへ向かうことになります。

しかし頼りにしようとしていた従兄のエミルは無愛想で何の手助けもしてくれず、エミルの“インターン”を名乗るデニスが彼女の話を聞いてくれるため、頼りにすることになります。

そして父のいる町を目指しバスに乗り込むアルマ。ところが休憩の間にバスは彼女を置き去りにし、荷物だけを乗せたまま走り去ってしてしまい…

主人公の少女が抱える複雑なルーツ

(C)2019(PUPKIN)

生き別れとなっていた父と会うために故郷の街にやってきた一人の少女。

物語は彼女の旅の風景を淡々と描いていくものですが、ボスニア・ヘルツェゴビナという国は歴史の中でさまざまな民族が共存と分離を繰り返してきた地域。

かつオスマン帝国やオーストリア=ハンガリー帝国の支配を受けた後に、第一次世界大戦後にユーゴスラビア王国、第二次世界大戦後はユーゴスラビア社会主義連邦共和国と、その国名を名乗るまで波乱万丈の道のりを歩んできました。

さらに1992年に独立を宣言、しかしその後独立の可否や国のあり方をめぐって1995年までボスニア・ヘルツェゴビナ紛争が勃発と、近代まで不安定な状況が続いた複雑な事情を持った国でした。

撮影当時について作品を手がけたエナ・センディヤレビッチ監督は、撮影を行ったこの国について「(ボスニアの)若者の失業率が60%にも達し、政治制度が分断と腐敗を助長し、国の機能が十分に果たされていない状況」であったと、その不安定な状況を振り返っています。

人物の表情と風景の組み合わせで繊細に描いた論点

(C)2019(PUPKIN)

主人公の少女アルマはそんな歴史を抱えるボスニアの戦火を逃れオランダに移住、民主主義体制の国で成長を遂げながら一方でボスニアが故郷、父がボスニアにいる、という複雑な事情を抱えているわけです。

そんな彼女はまだ大人になり切った状態ではない中で、母親から言われるがままにほぼ宛てのない旅に出向いていくわけですが、その道のりの中でさまざまに発生する事件に対して、それぞれに印象的な表情を見せていきます。

本作で見られるその表情は大きな感情の変化が見えてくるものではありませんが、それを周辺の風景との対比で繊細に描くことで、彼女自身のまだ不安定な成長過程と複雑なアイデンティティーに翻弄されている様子を浮き彫りにしています。

このさまは、現代の「生きづらさ」という課題に悩む若者たちの表情を象徴している光景であるようにも見えてくるでしょう。

巨匠の作品からインスパイアされた感性

なお映画作品としては、アメリカの巨匠ジム・ジャームッシュ監督作「ストレンジャー・ザン・パラダイス」から多大な影響を受けていることが公言されている本作。

作品からは男女三人のロードムービーである点や、主人公の女性がハンガリーからアメリカという主義体制の異なった場所にやってくるエピソードなど非常に重なるポイントが見えてくる一方で、監督自身が作品に感銘を受けインスパイアされた本作ならではの特色も感じられます。

センディヤレビッチ監督は、主人公と同じボスニア・ヘルツェゴビナ出身、オランダ育ちという境遇を持っており、その意味で物語はフィクションでありながら、監督自身のルーツと重なる現実性も感じられるものとなっています。

淡い色彩感で描かれながらもどこか生々しさ、リアリティーも感じられ、さまざまな人生観が味わえる作品であるといえるでしょう。

映画『テイク・ミー・サムウェア・ナイス』は2025年9月13日(土)より全国順次上映

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