このシリーズでは、私のこれまでの人生に大きな影響を与えた曲の数々を紹介します。
今回紹介するのは、世界的なシンガー、シンディ・ローパーの代表曲の一つである「TRUE COLORS」。
癒やしのバラードに乗せられた詞には、多様性が叫ばれる昨今にもつながる印象的なテーマがあり今なお世界中で親しまれています。
今回はこの曲の概要からその詞に描かれた世界のイメージを、私がこの曲と出会い人生を支えられた経緯などとともに紹介していきます。
「TRUE COLORS」とは
「TRUE COLORS」は1986年に発表された楽曲で、数々のヒットナンバーで知られるアメリカのソングライターであるビリー・スタインバーグとトム・ケリーが手がけた曲です。
曲はシンディのセカンドアルバム『TRUE COLORS』にタイトル曲として収録され発表されました。のちにシングルカットもされ、アメリカのもっとも有名な音楽チャートであるビルボード・ホット100で当時2週連続で一位を記録しました。
そして同年のグラミー賞において最優秀女性ポップ・ボーカル・パフォーマンス賞の候補作品にもなりました。
この曲の作詞には曲を歌い上げたシンディも関わっており、彼女の曲としては代表曲「Time After Time」などと並んで多くの人に親しまれています。
「TRUE COLORS」が示すもの
もともとこの曲についてスタインバーグは、この曲のテーマは自身の母についてのことを基としてヴァース(曲の導入部分。Aメロなどともいう)とコーラス(サビ)を描き、そのコーラス部分の詞に魅力を感じヴァースを書き直したと、インタビューで語っています。
曲のアイデアの発端よりコーラスを残し、基本的なテーマを書き換えるということは大きな方向転換であり、下手に作業を進めてしまうと詞の中に込められた物語が破綻してしまう恐れもあり、彼自身もこの方向転換には大いに悩んだことを明かしています。
詞の内容は、傷つき思い悩むことで自身を見失った人を癒やし、“本当のあなたに見える色は美しい”と励まし導いていくもの。
全体的なデモができたのちに、シンディによって途中にささやきのようなフレーズである「Can’t remember when I last saw you laughing(思い出せないの 私が最後に見た あなたが笑っているところを)」などのパートが付加されました。
ヒット曲「Girls Just Want to Have Fun」のMVで見られる明るくあっけらかんとした表情とは対照的に、幼いころから不遇の生活を乗り越え生きてきた彼女だからこそ曲に感情移入することができたともいえ、スタインバーグ自身もその最終完成形に対して大いに喜んだといいます。
またこの曲は近年、同性愛者の人たちを支援する人権運動のテーマ曲として多く使用されています。
その要因としてはサビの最後につけられた詞である「True colors are beautiful Like a Rainbow((あなたのその)本当の色は美しい。まるで虹のように)」という部分に起因している部分などに考えられます。
実際シンディは2007年にイレイジャー、ルーファス・ウェインライト、マーガレット・チョー、サラ・マクラクラン、ティーガン&サラ、レジーナ・スペクター、The B-52’s、ジョーン・ジェット&ザ・ブラックハーツ、インディゴ・ガールズなどの多くのアーティストともに同性愛者の権利の擁護推進の目的により『True Colors 2007 Tour』を実施、2008年、2010年にも同様のライブツアーを開催しLGBTの人権擁護活動に積極的に取り組んでいます。
心の支えとなった曲
私の青春を彩った数々の80’sミュージック。この曲もその印象的なナンバーの一つ。中でもこの曲は、当時大きく思い悩んでいた自分を癒やし導いてくれた大切なナンバーでした。
それほど体も大きくなく、これといった特技もなくて、人と付き合うということも苦手だった私の中学生時代。この頃はさまざまなイジメに遭い、とてもつらい毎日を送っていました。
わけも分からないまま毎日嫌がらせを受け、抵抗するすべもなく嫌な気持ちでいた自分はいつしか「自分には何もない」「自分は何もできない」と自分自身をさげすんで見ていました。
そんな辛い青春時代に出会ったのが、この「TRUE COLORS」でした。曲を聴いて「自分の“本当の色”ってなんだろう?」と考えるうちに、まだ自分には気づいていない自身の本質があると信じるようになり、前向きな気持ちが芽生えていきました。
ヴァースからコーラスの間には「なにかあれば助けを呼んで 私がそばにいるから」という表現も、他人に頼るところを知らずに失望していた自分には大きな支えになったのではないかと思います。
80年代にはU.S.A. フォー・アフリカに参加し、以後もさまざまなチャリティーや慈善活動に精力的に活動を続けているシンディ。
2011年にはアルゼンチンのブエノス・アイレス空港でフライト遅延や欠航が続出するという出来事に見舞われ、乗客たちが空港運営側への不満を爆発しかねない状況にまで陥った中で、空港のアナウンスマイクを使ってその場で「Girls Just Want to Have Fun」とともに「TRUE COLORS」をアカペラで歌い、皆の怒りを静めたというエピソードがあります。
上の動画はまさにその時のことを乗客が携帯で撮影したものです。「TRUE COLORS」はこのような突然のことでも自ら行動を起こし、人に手を差し伸べようとする、まさに「人のそばに居ようとする」彼女が歌ったからこそ、自分の心に深く響いた曲であると思っています。
そして私は未だ自分自身の「TRUE COLORS」を実態したことはないものの、それは確実に自分の中あるものなのだと、信じているわけであります。