宝石泥棒が障がい者たちのサマーキャンプに!?奇想天外なハプニングからハートウォーミングな感動への展開が見事なフランス映画『サムシング・エクストラ!やさしい泥棒のゆかいな逃避行』が公開されます。
実際に障がいのある11人のアマチュア俳優たちを起用、脚本は彼らに当て書きされ作られたというこの作品。
フランスで2024年年間興行収入No.1、1080万人動員(フランス国民の7人に1人)、公開から7週連続No.1、公開初日の動員数では大ヒットを記録した2011年の『最強のふたり』を大きく上回りフランス映画史上歴代2位。驚異の記録を次々と打ち立て、フランスで《社会現象》となりました。
フランスやヨーロッパで、近年こうした作品が多く発表され、大きな注目を浴びているという傾向も非常に興味深いところでありますが、本作はその中でも特に、今ぜひ注目すべき作品といえるものであります。
映画『サムシング・エクストラ!やさしい泥棒のゆかいな逃避行』とは
作品概要

(C)2024 CINE NOMINE – M6 FILMS – AUVERGNE-RHÔNE-ALPES CINEMA – SAME PLAYER – KABO FILMS – ECHO STUDIO – BNP PARIBAS PICTURES – IMPACT FILM
とある宝石泥棒の親子が、泥棒を働いた後の逃避行の中で障がい者施設のサマーキャンプに潜入したことで巻き起こる騒動をユーモラスに、そして感動的に描いたハートフルコメディ。
フランスの人気コメディアン・俳優・作家のアルテュスが監督・脚本および主演を務めました。
キャストにはほかに『幸せはシャンソニア劇場から』などのベテラン俳優クロビス・コルニアック、フランスの女優アリス・ベライディら。さらに加えて実際に障がいを持つ11人のアマチュア俳優が起用されています。
製作年:2024年(フランス映画)
原題:Un p’tit truc en plus
監督・脚本・主演:アルテュス
出演:アルテュス、クロビス・コルニアック、アリス・ベライディ、マルク・リゾ、セリーヌ・グルサール、アルノー・トゥパンス、マリ・コラン、テオフィル・ルロワ、ルドビク・ブール、ソフィアン・リブ、スタニスラス・カルモン、マヤヌ=サラ・エル・バズ、ボリス・ピトエフ、ギャッド・アベカシス、ティボー・コナン、バンジャマン・バンドワルほか
配給:東和ピクチャーズ
あらすじ

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とある宝石店に泥棒として潜り込んだパウロとその父親。盗品をせしめた後に二人は逃亡を図りますが、乗ってきた車を「障がい者優先」の駐車場に止めてしまったことでレッカー移動されてしまいます。
逃げる手段を失い立ち往生していた二人は、障がい者施設の一団がサマーキャンプに出発しようとしていたところに出くわします。そこで彼らは職員から「新たな入所者」と勘違いされてしまいます。
しかしこれ幸いと、二人は「入所者とその介助者」に成りすまして一団に潜入することを決心。最初は大きな戸惑いを感じていた二人でしたが、個性豊かな入所者たちとの賑やかな日々は、その心を優しく解きほぐしていくのでした。
「理解していたつもり」の壁が崩れる瞬間

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映画『サムシング・エクストラ! やさしい泥棒のゆかいな逃避行』は、宝石泥棒が障がい者施設に紛れ込むという突拍子もない設定から始まります。物語冒頭、観客は“障がい者が登場する映画”に対してどこか身構えてしまいがちです。彼らを「大変な立場の人」、「配慮が必要な存在」と想定してしまうのは、多くの人が抱える無意識の思い込みかもしれません。
しかし、作品が進むほど、そうした先入観は自然と崩れていきます。実際の障がいを持つ俳優たちが演じるキャラクターは、とにかくチャーミングで、エネルギーに満ちています。遠慮なく自己主張し、時には驚くほどストレートに気持ちをぶつけ、下品な冗談も平気で飛ばします。その姿はいわゆる“保護される存在”ではなく、私たちと同じように日常を生きる、自然で個性豊かな人間そのもの。

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2018年のスペイン映画『だれもが愛しいチャンピオン』など、近年実際の障がい者をキャストに起用する作品も増えていますが、本作はその潮流をよりポップで軽やかに取り入れています。彼らの生活は悲壮感や感傷とも無縁で、生き生きとした“今その瞬間”にあふれています。
「距離を作っていたのは、実は自分たちのほうだった」見る人はそこでそう気づくのではないでしょうか。
理解しているつもりだっただけで、彼らの世界のリアリティに触れたことがなかった、と気づかされる。映画は決して説教をしません。けれど、彼らの自由で躍動的なふるまいが、観客の内側にひっそり貼りついていた偏見をそっと取り除いていきます。
“持っているはずなのに”苦しい私たちへ

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一方、泥棒たちの描き方もユニークで非常に意味深い存在。本来「健常者」で、社会的には“何も欠けていない”はずの彼らは、実は大きな欠乏を抱えています。
宝石や金品にしか価値を見いだせず、自分の人生を満たす方法を知らない。体も自由に動き、機能的な制約もないのに、心だけが、どこか貧しい。二人にはそんな姿が浮かび上がります。
障がい者たちが自分らしさをのびやかに表現するのとは対照的に、泥棒たちは“自分が何者であるか”を見失っているかのようです。作品はこの対比をユーモアと温度感を保ちながら描き出し、「生きづらさはどちらの側にも存在する」という事実を静かに提示します。
この構図は、現代社会の変化とも深く響き合います。パラリンピックやデフリンピックの広がりにより、障がい者がポジティブに注目される時代になりました。かつて「どう扱うか」を議論していた社会は、「どう共に生きるか」にフェーズを移しつつあります。

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しかし共生は理念で作り上げられるものではなく、人と人が出会い、ぶつかり、学び合う現場でこそ育まれるもの。
泥棒たちが障がい者たちとの交流を通じて変わっていく姿は、その“現場”そのものです。彼らは自分には欠けていた「素直さ」「正直さ」「他者を感じる力」を手に入れ、自分の在り方を問い直します。
泥棒たちの変化は、健常/障がいという二分法を超えて「誰もが生きづらさを抱える存在であり、他者との関係の中で変われる」というメッセージにつながります。
本作はクライムコメディの軽さを保ちながら、現代社会が抱える“見えない壁”に優しく手を触れます。障がい者と健常者という境界の上で揺れる心の動きが、これほど自然に、温かく描かれる作品は珍しいといえるでしょう。
笑っているうちに心のどこかがやわらかくなる。本作は、そんな幸福な瞬間を与えてくれる映画です。
映画『サムシング・エクストラ!やさしい泥棒のゆかいな逃避行』は2025年12月26日(金)より全国順次上映

