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【時川英之監督 インタビュー】 映画『惑星ラブソング』 若者に伝わりやすい方法を模索した「平和へのメッセージ」

ライフワーク
(C)惑星ラブソング製作委員会
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広島から平和への願いと未来の希望を、奇想天外なストーリーで描いた映画『惑星ラブソング』5月23日に広島県先行上映、そして6月13日全国順次公開されることが決定しました。

広島を舞台に若者たちがアメリカ人旅行者に出会ったことから、予想だにしない体験をしていくことで、未来に目を向けていく姿を描いたこの物語。

戦争を体験した方々が減少しその記憶が薄れていくことが危惧される現代において、今後の世界を担う若者たちはどう生きていくべきか。平和の尊さとともにこれからの世界に向けた課題を問う、非常に大きなメッセージを持った作品であります。

本作を手がけたのは、広島在住の時川英之監督。五作目となる本作は、広島の歴史、そして平和というテーマに初めて正面から向き合い、CGによる特殊効果なども積極的に取り入れ強いインパクトを持った作品として仕上げました。

今回は時川監督に、本作の物語を手がけるきっかけやその覚悟、広島で作品を作ることへの思いなどをたずねました。

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映画『惑星ラブソング』とは

概要

とある広島の若者が謎のアメリカ人旅行者と出会い、交流を深めていく上で心の奥底に秘めていた思いと、広島の街の昔と今に向き合っていく様子を描いた物語。

広島在住の時川英之監督が作品を担当、作品はほとんどが広島県内で撮影が行われました。プロデュースを時川監督とRCC中国放送のアナウンサーである横山雄二が担当。

キャストには『交換ウソ日記』『なのに、千輝くんが甘すぎる。』の曽田陵介、『つぎとまります』『リゾートバイト』などの秋田汐梨のほかにチェイス・ジーグラー 、八嶋智人、谷村美月、川平慈英らが名を連ねます。

あらすじ

ある日、広島の若者モッチとアヤカは、謎めいたアメリカ人旅行者ジョンに出会い、広島の街を案内することになる。ジョンには不思議な力があり、広島の街に何かを見つけていく。

一方、小学校で広島の歴史を聞いて怖くなった少年ユウヤは不思議な夢を見る。夢の中の少女はユウヤを戦前の広島へと案内する。

公開:2025年5月23日(金)よりMOVIX広島駅、サロンシネマ、イオンシネマ広島、イオンシネマ西風新都、福山シネマモード、呉ポポロシアター、福山コロナシネマワールド、シネマ尾道 ほか広島県先行公開、2025年6月13日(金)よりシネマート新宿、池袋シネマ・ロサほか全国ロードショー
英題:Love Song from Hiroshima
製作・監督・脚本:時川英之
プロデュース:時川英之、横山雄二
キャスト:曽田陵介、秋田汐梨、チェイス・ジーグラー、八嶋智人、西川諄、Raimu、谷村美月、佐藤大樹、川平慈英、さいねい龍二、塚本恋乃葉、西村瑞樹、キコ・ウィルソン、松本裕見、田口智也、HIPPYほか
公式サイトはこちら

映画『惑星ラブソング』「反核」「平和」への新たなアプローチを感じさせる物語|広島国際映画祭2024レポート その3
広島という場所と平和、反核という永遠のテーマに対して、若者がこれからどう向き合っていくべきなのか?その答えを探し求めるためのきっかけを与えてくれるような映画『惑星ラブソング』。現代の若者が抱いている不安、疑問からの一歩を踏み出すためのヒントを、作品が放つメッセージより考えていきます。
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「広島」を通して見える「未来」を担う若者へのメッセージ

(C)惑星ラブソング製作委員会

--:今回の作品『惑星ラブソング』の発想は、どのようなきっかけがあったのでしょうか。

時川英之監督(以下、時川):映画の企画を考えたときに一つのアイデアを進めていたんですが、広島で撮るということで途中にもうすぐ被爆80年を迎えることをふと思い出したんです。だからその時点で描いていたものを一度保留にして、全く新しい物語を書き始めました。

原爆、反核というテーマを映画で扱うのは非常に難しく、作る上でも覚悟を決める必要があると思いました。ただ、きちんと平和をテーマに作ることを考えて物語をシリアスに書くことは大事でありつつも、映画としては見づらいものになってしまう可能性もあると思ったので、これをユニークで奇想天外な方向へ持っていくことにしました。

その意味でもともと考えていた物語もいいものだと思いましたが、どちらかというと大人しい話だったので「もっと破天荒な、野心的なアイデアを」と考え、今回の作品のアイデアを作っていったんです。

--:映画のほうでもセリフとして直接的に触れている部分がありますが、これからの時代を担う人が「反核、平和という課題にどう向き合っていくか」という、若い人に向けた視点が感じられます。

時川:ある意味「次に何ができるのか」というポイントに焦点を持ってく必要があると考えました。過去を振り返るということも大事だけど、若い世代の人たちが次に何をしていくか、これからはその考えを膨らませていかなければならないと思うんです。

僕らも戦争そのものを知らない世代ですし、若い子たちと同じではないでしょうか。だから平和という課題に対する具体的な答えはまだない中で、今は「それぞれが模索することを意識していく」ことがポイントだと考えました。

(C)惑星ラブソング製作委員会

--:ラブソングというコンセプトも非常に印象的ですね。

時川:曲、音楽というものが、みんなが平和を目指すときの旗印になると思いました。ジョン・レノンの「イマジン」は今も平和を語るときによく使われる曲です。それを世界中の人が聴けば、多くの人が同じような気持ちになれる。

これは僕の思い出なんですが、僕が小学校3年の頃、ジョン・レノンが撃たれて亡くなったという話を学校の先生がしてくれたんです。そのとき先生はすごく悲しそうだったんですが、そのときにジョン・レノンが書いたビートルズの曲を聴かせてくれました。

そんな思い出から「平和の曲を作った人が殺され、その記憶が巡り巡って戻ってくる」という話を描いてみたいと思ったんです。だから「平和にまつわる物語」という方向と並行して「歌が導いてくれる物語」を作ってみました。

「伝える使命」と「伝わりやすさ」のバランス

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--:本作の「破天荒」、奇想天外というコンセプトは、もともと時川監督ご自身の求める方向としてもお持ちなのでしょうか。

時川:そうですね。「大胆で野心的なものを作りたい」という気持ちは、昔からありました。前作の『彼女は夢で踊る』もクレイジーな話を作ろうと考えた結果として、結構変わった話になりましたし。

映画に対しては「変わったものを見たい」と思う人も多いんじゃないでしょうか。「見たことのないものを見たい」というか。

--:奇想天外さと平和の情報のバランスも重要なポイントですね。この作品がプレミア上映された広島国際映画祭では、登壇された本作プロデューサーの横山雄二さんもこのバランス感について語られていました。

時川:その議論は、製作の上でたびたび行いました。また当然バランス感は人それぞれ意見が異なるので、いろんな人に意見をたずねました。

そうしていくうちに「人それぞれ平和への距離が違うんだ」ということを感じました。平和ということに対していろんな感じ方、捉え方があるなと。だからある意味その最大公約数的な、みんなが手を伸ばしやすいところで「平和をテーマにしたユニークな作品」を目指したわけです。当然その模索にはすごく時間を掛けましたし、編集も大変な数を重ねました。

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--:本作のメッセージを表す上で一つの重要な鍵となるものに、テーマソングがあります。本編に出演されたチェイス・ジーグラーさんが作られた曲ということですが、この曲は非常に印象的なものですね。

時川:もともとテーマソングとしては、あの「イマジン」を使いたいと思い、関係各所へ使用許諾の交渉をしたんですが、いろんな理由で許可が下りなかったんです。かなりハードルが高いなと思って断念することになってしまいましたが、逆に物語としては出演者や曲に「彼の印象をにおわせる」くらいのほうが作りやすいなとも思いました。

だからその雰囲気が感じられる曲を、作曲家に作ってもらえるよう頼んでいましたが、そもそも「イマジン」みたいな曲を作ってほしいというのもかなり無茶な話で…当然、満足できるものが上がってこなかったので「映画の撮影が終わったら作り直そう」と思っていたんです。

そんなわけで撮影はとりあえず「イマジン」をかけて、後で入れ直すつもりで仕事を進めようと思っていたんですが、撮影に入る前にチェイスが「自分で作ったんだけど、聴いてみてくれない?」とパソコンで作ってくれたものを聴かせてくれました。聴いているとだんだん「いいな」と思えてきたんです。だからそれを撮影後に映画で使えるよう作り直してもらいました。

彼はLAで俳優として活躍していますが、音楽プロデューサーとしても活動しているんです。彼は脚本を深く読み、劇中の芝居の準備をする段階でその歌の雰囲気をうまくつかみ取ってくれたみたいでした。とてもいいものを作ってくれたと思っています。

物語を支えた個性的な三人

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--:メインキャスト三人についておうかがいできればと思います。まず主演の曽田陵介さんは、どのような点で主演に抜擢されたのでしょうか。

時川:もともと「広島に縁がある人で、このキャラクターに合った人」という観点で俳優を探していた中で、わりに早い段階でアプローチしていました。まだ主演の経験はなかったんですが、これまで出演したドラマ作品でのたたずまいもとてもよかったし、広島に住んでいたこともあり、広島の人を演じる感覚があったと思います。

存在感もあるし、等身大の若者を描け「しっかり自分を持っているけど、迷っていたり、悩んでいたりという心情を立ち振る舞いで出せる」、そんな主人公の等身大の人物像を描きながら、かつ別の変な人に振り回されたりして(笑)、そして成長していくという人物を描くことができると思ったんです。

実際に撮っていても面白かったし、芝居での自然な立ち振る舞いもよく、作品に真摯に取り組んでくれたのがとてもよかったと思います。英語は喋れないのに現場に入ったらチェイスとずっと話そうとして、夜までずっと会話しようと心がけて努力してくれたり。そんなふうにこの撮影に一生懸命取り組んでくれたんです。

--:ヒロインの秋田汐梨さんはいかがでしょう。

時川:秋田さんも実力のある人で、曽田くんと合いそうだという印象もあったのでお声がけしました。秋田さんはとても器用な上に、非常に優れた特技があるのが印象でした。

おそらく耳がとてもいいと思うんですが、彼女は京都出身で広島弁を話したこともないのに、テープを聞いてそのままアクセントをコントロールできるようになったんです。聞いて耳で覚えたというか。

また劇中では彼女が英語を喋るシーンもありますが、実は全く英語も喋れないのに(笑)、全部聞いて覚えたんです。それほど長い準備期間もない中で、「少し英語が話せる学生くらいの発音」を本当にうまく表現してくれました。

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--:そしてかなり個性的なキャラクターを演じられたチェイス・ジーグラーさんは、どんな経緯で出演が決まったのでしょうか。

時川:ジョンというアメリカ人の役は、日本やアメリカのSNSやヨーロッパのエージェントに探してもらっており、その中で100人くらいの資料を見て、Zoomでオーディションを繰り返しました。

候補者はみなこの役を面白がってくれて、中にはかなり有名な人もいましたが、選考していく中で悩みながら最終的に三人くらいに絞って、その中で「チェイスしかない」と思いました。どう考えても彼がキャラクターに合っている。本当に素晴らしいキャラクターにできましたね。

--:この個性的な布陣の中で、八嶋智人さんのキャラクターもまたユニークなものですね。

時川:あの立ち位置にいてもらえると、全体のバランスがよくなりますね。八嶋さんは僕の三作目の映画『鯉のはなシアター』で、出演していただいたきっかけでお声がけさせていただいたんですが、あの役に八嶋さんがすごく近いと思っていました。

広島で作ることで知った「映画を作る上で大切なこと」

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--:興味深いのは、作品の序盤で川平慈英さんが出られていたシーンですが、非常に近代的な建築が森の中にあるという魅力的な光景でしたね。

時川:あれは広島の廿日市市にあるフマキラー株式会社の建物です。新しい設備が非常に斬新な場所でした。ただ外観はインドネシアにある工場のもの。廿日市市、インドネシア両方に全く同じ設計で作られた建物を所有されており、両方の映像を使用しているんです。建物内は広島で撮影し、空撮の建物外観はインドネシアで空撮されたものを借りました。

--:ほかにも冒頭に映し出されるマリーナホップ(2024年に閉館)の水族館など、広島の印象的な風景が多く見られますね。広島へのこだわりはやはりあるのでしょうか。

時川:マリーナホップは僕も何度か行ったことがあって、水族館も含めて周りもすごく綺麗なので撮りたいと思っていたんです。閉館が決まった後に、あそこで撮ってほしいという話をいただいたので、あのシーンを撮影させていただきました。

実はそこまで広島だけこだわっているつもりはないんです。ただ東京でも企画を出したりしているんですが、なかなか時間が掛かることが多くて、いつの間にか広島の企画のほうが先に立ち上がったりして(笑)。

また広島は自然と題材が見つかるということも大きいですね。今回も作る機会を与えてもらったのもそうですけど、何をやろうかと思ったときに、広島では毎回自然に企画が見つかっていることで、自然なスタイルで作れています。自分が好きな題材が見つかりやすいというか。

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--:映画を作る上では、どのようなことを強く意識されているのでしょうか。

時川:やはり「自分にしか撮れないものを撮る」というのが大事だと意識しています。海外ではよく「自分のストーリーを描け」、根本的に作家として、自分にしか語れない、自分が知っているストーリーを描けといわれます。

本作は僕が子供の頃のときの話も入っているし、それこそ僕以外の人では絶対撮れないだろう、と思うくらいの個人的視点がたくさんあります。その意味ではありがたいことに、自然に広島で撮らせてもらえる何かがあるのではないかと思っている一方で、今回は特に本当に「自分にしか撮れないもの」を撮ったという気持ちです。

時川英之監督 プロフィール

1972年生まれ、広島県出身。明治大学からバンクーバー・フィルムスクールを経てディスカバリーチャンネル・アジア(シンガポール)、ウォルト・ディズニー・テレビジョン(東京)で多くの番組にプロデューサー・ディレクターとして携わる。

その後は映画監督・岩井俊二氏に師事。映画を中心にドキュメンタリー・テレビCM・ミュージックビデオなど幅広いジャンルの映像作品を手がけ、活動範囲は日本にとどまらず、国際色豊かな経験からユニークな作品を作り出している。

2009年には自身の映像会社「TimeRiver Pictures」を設立。2014年に長編第1作となる映画『ラジオの恋』を中国放送のアナウンサー・横山雄二の主演で制作し、以後『シネマの天使』『鯉のはなシアター』『彼女は夢で踊る』と広島を拠点に映画を撮り、全国公開する作品を続けている。

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