1月12日より3日間に亘り、広島・尾道にてイベント『尾道映画祭2024』が開催されました。
尾道は、古くは小津安二郎の『東京物語』など、数々の名作を生んだロケ地であり、日本を代表する故・大林宣彦監督の生まれ故郷でもあり、大林監督が生前「尾道三部作」「新尾道三部作」をはじめとした地に由来のある作品を輩出したことから「映画の街」としても知られています。
『尾道映画祭』は、そんな尾道で2017年より開催。2020年はコロナ禍の発生に伴い一時中断しましたが、2021に制限を設けながら開催し、第七回となる今回は実に5年ぶりとなる通常開催を迎えました。
今回はコラムにて、この映画祭で特別招待された作品を、イベントに招待されたゲストによるトークショーのレポートとともに紹介していきたいと思います。
第1回は松永大司監督による映画『エゴイスト』です。
映画『エゴイスト』とは
概要
エッセイスト・高山真が自伝的小説として発表した作品『エゴイスト』を原作とし、一人の同性愛者が出会った男性との生きざまを、彼らを取り巻く家族との生活を交えて描きます。
『トイレのピエタ』『Pure Japanese』『ハナレイ・ベイ』などの松永大司監督が作品を手がけました。またメインキャストとして主人公・浩輔を鈴木亮平、龍太を宮沢氷魚、龍太の母を阿川佐和子、浩輔の父を柄本明が演じます。
あらすじ
田舎町でゲイである本当の自分を押し殺して思春期を過ごした男性・浩輔。14歳の時に母を亡くした彼は現在、過去から逃れるように東京でファッション誌の編集者として自律した生活を送っていました。
ある日、浩輔はパーソナルトレーナーの龍太と出会います。
母を支えながら暮らしているという彼に興味を持った浩輔。そしていつしか二人はお互いにひかれ合います。時には龍太の母とも食事をし満ち足りた時間を過ごしていく中、母に寄り添う龍太の姿に、浩輔は亡き母への思いを重ねたりもします。
そして、いつしか龍太と母を自身の愛で支えようと決心する浩輔。ところが二人でドライブの約束をしていた日、龍太は浩輔のもとに現れませんでした……。
尾道映画祭2024 松永大司監督、ドリアン・ロロブリジータ トークショー
作品は1月13日にシネマ尾道で上映され、上映後には作品を手がけた松永大司監督と、本作に出演したドラァグクイーンのドリアン・ロロブリジーダさんが登壇し、映画製作にまつわる経緯などを語りました。
ドリアンさんの華やかな姿と、軽妙なトークで賑やかな空気感を会場いっぱいに振りまく二人。その出会いは本作が最初でありながら、昔ながらの友達といったたたずまいを見せており、松永監督は「映画を一本作ると、距離が近くなりますよね」などと語ります。
一方、ドリアンさんは、監督がデビュー作である意味ドリアンさんの先輩ともいえる日本人コンテンポラリーアーティスト、ピュ〜ぴるを追ったドキュメンタリー映画『ピュ〜ぴる』を発表していたことから「親近感が湧いていた」と振り返ります。
ドリアンさんは劇中、主人公が集まるゲイ、ドラァグクイーンたちの集いなどのシーンに出演。ときにシリアスなイメージも見られる本作で、真反対のにぎやかで楽しい雰囲気を醸すこれらのシーンですが、松永監督は「ああいったシーンをちゃんと撮るのも大事だと思うんです」とコメント。
合わせて「LGBTって、どこか違う人の目で見る人もいるわけで、そんな目線に対して『楽しい』『あの場に入っていきたい』と思ってもらいたかったんです。みんな楽しい人で、本当に私生活が豊かに見える人たち。だからその豊かさが垣間見られたら」と、本作に込められた、一般的には見過ごされがちなポイントを語ります。
またドリアンさんは原作者である高山真さんと生前に交流があったことなどは、高山さん自身を知る一つのカギになり、本作の製作に対して大きな力になったとも振り返ります。
また、この日は観客からの質問コーナーを開設。本作前半でメインキャストである鈴木亮平さんと宮沢氷魚さんの濃厚なラブシーンが描かれていることについて「敢えて(このシーンで)濃密さを表現したその意図は?」と尋ねられると「濃密に描こうとか、あまりそういうことは考えていません。ただ『ちゃんと撮ろう』とは思いました。好きな人同士が肌を触れ合わせるとか、大切な表現じゃないかと思うし。またそこにキャラクターの性格も表現したかったからです」と、物語に込めた思いとともにその真意を語るなど、楽しくも深いQ&Aでトークショーを盛り上げていました。
注:ドラァグクイーン:女装で行うパフォーマンスの一種
悩みながら生きていく人の中にある「光」が感じられる物語
鈴木亮平、宮沢氷魚ら今旬ともいえる俳優陣が、文字通り体を張って挑んだ様子もうかがえる本作。ゲイの人たちが集い賑やかな宴会を繰り出すシーン、それとは対照的に衝撃的ともいえる濃厚なラブシーン、そして胸を突きさされるような痛みも感じられる衝突、苦悩のシーン。さまざまに交差する物語の中で、いわゆる「性別に関する社会的な問題」といわれるものは、物語の展開が進むに従い、どこか定型的な話題にしか見えてこなくなっていきます。
2014年に『チョコレートドーナツ』という映画作品が発表されました。この作品はまだLGBTへの理解が社会的に広まっていなかった1970年代、とあるゲイのカップルと、一人の育児放棄されたダウン症の子供が出会い、奇妙な共同生活を送る中で愛が育まれていくという物語。
前半はどちらかというとゲイのリアルな姿が描かれ、物語が展開していくうちに性別などといった断片的な基準を超えた、いわゆる「真の愛」の姿をイメージしたものとなり、どこか辛辣なメッセージが見えてくる一方で、性別の偏見に悩む人たちの胸の内にある「美しさ」が感じられます。本作からは作品から受ける印象として似たものを感じる人もいるのではないでしょうか。
LGBT、同性愛などといった現代的な課題に対する直接的なメッセージを感じるもの、というよりは「性に悩んでいる人」のリアルから、最後に人として持つ光のような「美しさ」を感じられる作品であるといえるでしょう。