長野県における吉阪作品
長野県にある吉阪隆正の作品は以下の通り。
- 大阪経済大学 白山ヒュッテ 小谷村
- 涸沢ヒュッテ新館 松本市
- 野沢温泉ロッジ 野沢温泉村
- 山岳アルコウ会ヒュッテ 立科町
- 更埴市庁舎(旧千曲市庁舎)
登山家らしく山岳部に建設された施設が多いのですが(というかこんなにあったんだァ)今回ご紹介するのは、
更埴市庁舎(旧千曲市庁舎)
【DATA】
施設名 千曲市役所 旧庁舎
場所 長野県千曲市大字杭瀬下84
設計 U研究室(滝沢事務所)
竣工年 1966年
アクセス
こちらはしなの鉄道線 屋代駅から1Kmほど場所にあります。鉄筋コンクリート造、地下1階、地上4階延床面積3820㎡の庁舎は平面形状こそシンプルな長方形ですが、特徴は外観と平面計画にあります。
変なデザイン
南側あるいは北側には逆台形の開口部が不規則に並び、その上にはプリーズソレイユ。建築化された日除けや雨除けを指します。サスティナブル建築の先駆け、という評価もなくはないですが、1965年当時の北信地方に必要だったかは微妙といえましょう。まぁやりたいからやったという事なのではないでしょうか。2階に唐突に張り出したバルコニーは避難用なのかなァ、そんなようには見えないのですが。1階東側ピロティに設けられた彫刻は坂上政克という方の作品ですが、ウルトラ警備隊のマークにしか見えません。
変でカッコいい!
そして何より特徴的、いやへんてこりんなのが平面計画です。みっつのブロックに分けられており、半層ずつずれた各フロアは、中心に吹き抜けを伴った階段で繋げられ、ダイナミックな空間が演出されています。
ひと口に言えば
「すんげーカッコいい建築」
です。久しぶりに雰囲気のよいモダン建築と出会えたと思いましたが、まことに生憎なことに使い勝手が悪い、それも超絶的に。半層上がったところで手続きを行い、手数料を払うために階段を半分上がってまた戻り、その書類をもってまた上がって向こうの庁舎に入ってからまた戻る。そこはまるで永遠のラビリンス。
地形に制約があるなら仕方がありませんが、平坦地のわけですからこれも
「やりたいからやった」
デザインなのでしょう。そのためずいぶん早い時期から建て替えあるいは移転の計画があったといいますが、むべなるかなといったところでしょう。
みんなでつくる
設計 滝沢健児と紹介されている資料もあります。彼は吉阪隆正U研究室のチーフ的な存在で、浦邸やヴィラ・クゥクゥといった吉阪の名作を担当された人物で、のちに国士舘大学の教授に就任されました。更埴出身の建築家に依頼があり、吉阪名義で受注した、という事でしょうか。「みんなでつくる」事にこだわってきた人たちですから、だれそれの設計という事はあまり気にならなかったのかもしれません。
新しい市庁舎
市庁舎は数年前に他所に新築・移転され(そこには滝沢健児設計のかっこいい体育館がありました)、デザインは今ひとつですが使い勝手は数十億倍よくなりました。旧庁舎は現在、千曲市の部局がいくつか置かれているようですが、ほとんど使われていないのではないでしょうか。日本建築学会から保存要望がなされたり、解体反対の署名活動が行われたり(私も署名しました)したためでしょうか。そうであれば、もう少ししっかりと保存してもらいたいものですが、なかなかそこまで手が回らないのが実情でしょう。
まとめ
へんてこりんですが日本が、モダニズムが元気だったころの建築です。そこにいるだけで心が躍ってくるような気にさせられます。
追伸
吉阪隆正の作が長野県に、それも私の居住地からさほど遠くないところに、こんなにあるのかと驚いております。それも全て現存してるっぽいときたら観に行かねば。ただ、どこも山の中なのです。おれ山登り嫌いなんだよな、とかなり躊躇もしております。