重度障害者が働く際に最もネックになるのは通勤や職場での身体介助。
従来、通勤や就労時には福祉制度でのヘルパー介助は認められていませんでした。自費でヘルパーを雇えば高額な費用が必要となる為、障害が重くなると退職を選ばざるを得ないというのが当たり前でした。
「重度障害があっても働きたい」という声は以前から多かったのですが、それがやっと整備されたのが、令和2年10月に新しく創設された「重度障害者等就労支援特別事業」です。
制度の概要・目的
この事業の実施主体は、地方自治体です。
【制度の目的】
障害者の就労機会の拡大を図るため、「福祉施策」と「雇用施策」が連携して、重度障害者が就労する場合に通勤の支援や職場での身体介護などの支援を行うことにより、働く意欲のある障害者を支援する。
つまり、障害者雇用納付金制度に基づく助成金を活用する「雇用施策」と、地域生活支援促進事業を活用する「福祉施策」とをあわせて、一体的に支援するという制度です。
以下の厚生労働省が公開しているPDFに、事業の仕組みが分かりやすく書かれています。
【厚生労働省「重度障害者等に対する通勤や職場等における支援について」PDF】
https://www.mhlw.go.jp/content/001073876.pdf
対象者
以下の要件をすべて満たしている方が対象です。
※自治体によって細部が異なりますのでお住いの自治体の要綱を必ず確認してください。
1.重度訪問介護、同行援護、行動援護のいずれかの支給決定を受けている方
2.民間企業に雇用されている、又は、自営業の方で通勤や職場における支援が必要な方
3.1週間の所定労働時間が10時間以上であること(今後10時間以上の勤務となることが見込まれる方も含む)
※就労継続支援A型事業所、国家公務員、地方公務員、国会議員、地方議会議員等の公務部門で雇用等される者その他これに準ずる者は除く。
課題
雇用保険に加入できない公務員は、この事業の対象外です。障害者にとって働きづらいことを意味し、せめて民間企業と同程度の仕組みを早急に整えるべき。公務員として働いている障害者も、労働者ですよね。
身体障害者の場合、重度訪問介護の支給決定を受けていなければならない為、障害の程度はそれなりに深刻にもかかわらず重度訪問介護を認めてもらえていない障害者の救済ができません。
自治体によっては、以前から、重度訪問介護そのものの支給決定を全く出していないところもあり、そうすると、この「重度障害者等就労支援特別事業」も使えないことになってしまいます。
自治体が事業主体となる制度の為、全ての自治体でこの制度が使えるわけではなく、自治体によってサービスの差が生じているのは問題です。
次の章では、この制度を実施している自治体はどこなのか、紐解いていきましょう。
実施している自治体
厚生労働省が公開している、令和5年7月31日時点の調査報告書を見てみましょう。
実施要項を作成済みの自治体は54。実施準備中の自治体は23。
実施行政単位の自治体(市町村)数は、全部で1,718ですので、1,718のうち54しかまだこの事業を創設していないというのは、あまりにも少ない数です。
要綱の準備さえ全く動きが無い都道府県は、15あります。
自治体に整備するかどうかが委ねられているとはいえ、居住している地域によって不公平が出るのは健全な状態とは言えません。
次に、こちらは、事業を実施した自治体ごとの実施人数、障害者の就業形態、障害福祉サービス区分です。
大阪市、京都市など都市部で実施人数が多いようですが、日本の人口の10%を占める東京都での実施人数が極端に少ない事が気になりますね。企業の数も多いと思うのですが、東京都は障害者が働くには過酷なのか、自治体が支給決定を出さない場合が多いのか、理由は何なのでしょう。
いずれにしろ、必要な人が必要な制度を使えるように広がってほしいものです。
最後に
障害当事者でない人にとっては「介護を受けながら働く、って、ちゃんと働けるの?」と思われるかもしれませんが、ほんの少しの介助で、障害が無い人と同じように働ける人はたくさんいるのです。
どの障害にも言えることですが、「障害がある」イコール「仕事をする能力が無い」のではありません。障害の状況・程度によって仕事内容の振り分けを工夫すればいいだけなのです。
これまでの日本では、「障害がある」→「仕事をする能力が無い」→「社会のお荷物」→「雇用率制度を作らなきゃ企業は雇用しない」という短絡的な思考回路でしたが、これからは少子化社会の中で障害者も貴重な労働人口として活かしていくことが、豊かな社会づくりには欠かせないのではないでしょうか。
気になる方は、お住まいの自治体でこの制度が整備されているか、確認してみてください。