第三回となる『「フェミニズム」を感じさせる映画セレクト』。ハロウィンも近づく今日この頃、今回はそんな季節柄から「恐怖におののきながらも生き残る女性の姿より、フェミニズムを感じさせる」ホラー映画シリーズを、代表的なヒロインとともに紹介します。
ホラー映画の中で、女性が生き残るも作品として最も思い出されるのは、やはり1980年公開の映画『13日の金曜日』ではないでしょうか。とあるキャンプ施設を訪れた若者たちが、謎の殺人鬼に襲われ一人、また一人と無残にも殺されてしまうというこの作品。公開された1980年という時代を考えると、実は単なるホラー映画ではない、時代の風景を取り入れた作品であることも感じられるでしょう。
1960年代は、アメリカ国内で若者を中心に台頭してきたヒッピー文化がその勢力を増してきた時代でしたが、それは1975年以降、ヒッピーたちが多くの抗議デモを繰り広げてきたベトナム戦争の終結とともに衰退の一途をたどっていました。その結果ヒッピー文化の一側面であるセックス、ドラッグといった悪イメージがヒッピーを強く象徴するものとして残り、作品からは若者たちの中でこの「悪行」に興じる若者たちが被害者になるという、まさに時代的な空気が見えてくるものでありました。
そしてこの物語に最後まで生き残ったのは、若者たちの中でもどちらかというと品行方正なアリスという女性ただ一人でした。『正しい行いをしたもの』が生き残る、という寓話的な啓示、と解釈することもできるかもしれません。一方、女性が最後まで残った本作はある意味「連続殺人が行われるという趣旨の映画において『女性が最後まで生き残る』というフォーマットを作った作品」という印象も残しています。
今回はこのように「生き残る」意味を強く感じさせる女性が登場するホラー作品を紹介していきます。特に何作も続編が作られたシリーズ作品は、登場人物の印象も強く「なぜ彼女は生き残ったのか?」という理由から、何かにつながる意味を深く考えさせられるのであります。
『ハロウィン』シリーズ
作品概要
幼き頃に姉を殺害した男性が精神病院を脱走、自身の故郷に戻り殺人鬼として町の住民を一人、また一人と殺害していくホラー。『13日の金曜日』と並んで「スラッシャー映画の金字塔」と称される名作ホラー物語です。
ホラー映画の巨匠ジョン・カーペンターが第一作を手がけ、以後1995年に第6作『ハロウィン6 最後の戦い』が公開されましたが、実はカーペンターが作品に関わったのは第三作まで。以後は完全なるジャンル映画的な作品となり、派生的作品『ハロウィン H20』『ハロウィン レザレクション』なども発表されましたが、思わしい評価が得られることはありませんでした。
しかし2007年にロブ・ゾンビ監督がリブート作品を発表したころからはシリーズが再び注目を集め、2018年には監督をデヴィッド・ゴードン・グリーンが務めた『ハロウィン』が発表され、初作のヒロインであったローリー・ストロードを少し違った形で登場させるとともに重厚な作風が復活しました。
第一作公開年:1978年(アメリカ映画)
原題:Halloween
シリーズを通し恐怖を克服していった『ローリー・ストロード』
主人公ローリー・ストロードが物語に登場したのは第一作より。三作は番外編的な物語となっており、以後要所で登場しながら、時には忌まわしい事件から逃げるために名前を変えたりと、どちらかというと逃げ腰のスタンスが特徴でした。
しかし2018年の映画『ハロウィン』では娘と孫とともに、周囲からは変人と思われながらもマイヤーズとの対決に備えるという人物が描かれていました。周囲に理解されなくても自身を貫く覚悟で、マイケルが現れた際に「恐れを見せない」強靭な意志を見せるその表情。そしてシリーズ最終作『ハロウィン THE END』で彼女はついにその思いを遂げます。
第一作より登場するストロードは、当初物語ではなぜ殺人鬼マイケル・マイヤーズに追われるのか、その理由もわからないままに恐怖におののいていましたが、やがて逃避一辺倒であった気持ちを変え覚悟を決めて、対決していくという構図に切り替わっており、女性の意識の目覚めを表しているような印象を感じるキャラクターであります。
ちなみにストロードをシリーズ通して演じたジェイミー・リー・カーティスは、1980年に発表された映画『プロムナイト』『テラー・トレイン』と立て続けにホラー映画でヒロインを担当。母はあのサスペンス映画の祖といわれる映画『サイコ』でヒロインを演じたジャネット・リーであり、ホラージャンルには非常にいわれの強い女優であり、当時『絶叫クィーン』などと呼ばれていました。
『エイリアン』シリーズ
作品概要
宇宙開発が進む未来において、とある惑星で人類が未知の生物(劇中では「ゼノモーフ」と呼ばれています)と恐怖の遭遇を果たしてしまうことで巻き起こる激しい戦いを描いたSFアクションホラー映画シリーズ。
『ハロウィン』を手がけたジョン・カーペンター、『バタリアン』のダン・オバノンという二人が作り上げた原案的作品『ダーク・スター』のアイデアより、リドリー・スコット監督の手で第一作が生み出されました。
以後第二作をジェームズ・キャメロン、第三作をデヴィッド・フィンチャー、第四作をジャン=ピエール・ジュネが担当、それぞれの監督のカラーが生かされたシリーズとなりました。さらに作品は『プロメテウス』(2012)、『エイリアン・コヴェナント』(2017)と、エイリアン自体の発生の起源に迫る別の物語が作られ、大いに話題を呼びました。
「強い女性」の時代的象徴ともいわれた『エレン・リプリー』
第一作より第四作、『エイリアン』シリーズのメインとなる物語の中で重要な役割を果たしてきたヒロイン、エレン・リプリー。第一作はほぼ絶望的な状況で一人生き残り、以後シリーズでゼノモーフとの戦いに果敢に挑む姿が描かれており、当時「強い女性」の象徴的な姿として取り上げられることもありました。特に第二作では、植民地に取り残された少女を救う姿から「強い母」的な印象がクローズアップされました。
実は第一作のリプリーはどちらかというと終盤にくるまで消極的な印象であり、強い印象はそれほど感じられない女性として描かれていました。その意味でこのイメージは、実はジェームズ・キャメロンが手がけた第二作からのものといわれていまず。実際監督が手がけたSFアクション映画『ターミネーター』シリーズに登場したヒロイン、サラ・コナー(リンダ・ハミルトン)がやはり「強い母」と変化を遂げており、監督作にはこのような意向があるともいわれています。
「エイリアン」シリーズでは特に第三作、リプリーが囚人惑星フィオリーナに流れ着き、誰も助けが来ない絶望的な状況において、男ばかりの囚人の中で「エイリアンと闘うべき」と恐れを打ち消し運命に立ち向かう意思を主導するという動きを見せており、まさに社会に向けた女性の意思の変化という意味でフェミニズムを感じられるものであります。
『スクリーム』シリーズ
作品概要
とある街に現れた「ゴーストフェイス」と呼ばれるマスクを被った殺人鬼をめぐって巻き起こる、人々の腹の探り合いを描いたサスペンスホラー。従来のホラー作品とは異なり、ホラーというジャンル自体を茶化したようなパロディーをストーリーに織り込むトリッキーな技巧が盛り込まれ、高い評価を得ました。
『エルム街の悪夢』シリーズを手がけたウェス・クレイヴン監督がシリーズ第4作までを担当、その後クレイヴン監督は死去しましたが現在もシリーズは監督を変え6作まで続編が作られており、現在は7作目も製作が進行しているといわれています。
自身の運命を乗り越え恐れを見せない『シドニー・プレスコット』
不可解な連続殺人の原因が、物語が進むにつれ主人公であるヒロイン、シドニー・プレスコットのもつ境遇にあると判明していく第一作のストーリー。
第二作、三作とクライマックスが近づくにつれその複雑な境遇、人間関係が明らかになると、彼女は恐ろしい運命に愕然、苦悩しながらも最後はバイオレンスな一撃を躊躇なく殺人鬼に決めます。彼女はもちろんその数奇な運命を後にも引きずっていかなければならないわけですが、ラストの一撃はその不穏な空気を一蹴するような爽快感を醸していきます。
特に第一作のクライマックス、判明した犯人に対し「ホラーのセオリー」を適用、「殺人鬼は頭を打ち、確実に仕留めないと自分がやられる」というルールを、躊躇なく決めるさまは痛快。自身の運命に翻弄されるという点では「ハロウィン」のローリー・ストロードに通じるものも感じられますが、どちらかというと自身の立ち位置に後ろめたさのようなものを引きずっていたストロードと比較し恐怖に向けて反撃をくわえる表情のクールさは本当に強く見え、見方を変えれば「自信」すら感じられる。その意味で二人の比較は二つの時代の比較とも見えてくるのではないでしょうか。