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映画『見知らぬ人の痛み』 「痛み」を抱える女性の姿より心に傷を負った人たちが新たな道を見つけるヒントを考える

映画『見知らぬ人の痛み』 生きづらさを抱えて
(C)MOON CINEMA PROJECT
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「いじめ」を経験し教師の職を辞した一人の女性が新たな職に就き、自身の道を見つけるべくもがき苦しむ姿より、傷ついた人がどう生きていくべきかを問う短編映画『見知らぬ人の痛み』が公開されます。

過去の痛手で傷つき抜け殻のように日々を過ごしてきた彼女は、コンテンツモデレーターという職を得ます。しかしその職業がもつ特別な性質に当初は大きなショックを受けながら、それを続けていくことで彼女は何かを発見します。

その「何か」はある意味現代社会で大きく注目されている「いじめ」の問題に対して、見落とされがちな論点を提唱しているようでもあります。

今回はこの作品の紹介とともに、「いじめ」という問題に対するこの新しい論点を考えてみたいと思います。

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映画『見知らぬ人の痛み』とは

作品概要

映画『見知らぬ人の痛み』フライヤー

(C)MOON CINEMA PROJECT

いじめにより精神的な痛手を負った元教師の女性が、コンテンツモデレーター(インターネット上のコンテンツを監視し、不適切と判断されるものを削除する仕事)の職に就いたことで変化していく心理を繊細に描いた短編ドラマ映画。作品は第17回札幌国際短編映画祭で最優秀国内作品賞を受賞しました。

監督・脚本担当として作品を手掛けたのは、映像ディレクターとして活躍する天野大地監督。SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2023で観客賞を受賞した『勝手に死ぬな』など多数の短編映画を作り上げてきました。主演は『鯨の骨』『夜明けまでバス停で』『花と雨』などの大西礼芳。

あらすじ


アルバイトとしてコンテンツモデレーターの仕事を得るための面接を受ける一人の女性。

彼女の名は倫子。かつて教師として勤務していた中学校で、生徒からのいじめに遭いその職を辞することになり、新たな仕事を探す中でこの職業に応募していました。

面接官に満足な回答もできなかった彼女でしたが意外にも結果は採用、かくして彼女は「インターネットの動画サイトにある不適切な動画をひたすら削除し、検閲する」という仕事を始めます。

当初は死や暴力といったおぞましい数々の映像に戸惑いを隠せなかった倫子でしたが、密かにその削除した内容を被害者の名前と共にノートに書き綴り仕事を続けます。

そして彼女は次第にこの仕事にのめりこんでいくのでしたが……。

「いじめ」被害者が人生を取り戻すための指針

映画『見知らぬ人の痛み』

(C)MOON CINEMA PROJECT

社会的にも大きな課題である「いじめ」問題。これまでも多くのメディアなどで「いじめ」という現場の問題についてさまざまなシチュエーション、問題点などに触れられてきました。

本作もこの課題に触れる物語ではありますが、他の多くの作品、情報と比べるとユニークなポイントに言及しているようでもあります。

それは「いじめ」という問題が発生した後の話であるという点にあります。

「いじめ」という問題に対し、その発生原因と対策といった課題に言及することは非常に大切なことです。しかし他方、この問題を完全に解決してしまえるかといえば、実際には非常に難しいものであります。

その意味では同時に問題が発生した後の対応、ケアを考えることも重要な課題でもあります。

映画『見知らぬ人の痛み』

(C)MOON CINEMA PROJECT

本作の主人公・倫子はとある学校の教師として勤め、その生活の中でいじめを受け職を退くことになりました。

「いじめ」という問題は学生世代の人物を扱うケースが多いようにも見受けられますが、倫子は成人でどちらかといえば「いじめ」の現場を第三者的に見るケースが多い教師という立場の人物ですが、本作ではいじめを受けた当事者となってしまうという背景です。

この設定は、さまざまな場面で彼女のような窮地に追い込まれる立場になる可能性の大きさを感じさせ、問題の普遍性をより深く感じられるものとしているようでもあります。

物語をたどっていくと、論点は倫子はこの後いかに生きていくのか、いかに自分の道を歩んでいくかというポイントにつながっていきます。

その意味で本作では「いじめ」という不幸に遭遇した人たちが、果たしてどのように自身の未来、生きる道を取り戻していくかというポイントに焦点を当てているといえるでしょう。

過去とどう向き合うべきか

映画『見知らぬ人の痛み』

(C)MOON CINEMA PROJECT

そして本作では「いじめ」という問題に対する重要なポイントである、当事者の思いにも触れています。

「いじめ」という問題を単に善悪の課題としてしまう方向性は、その問題自体の解決によって「いじめ」という事象自体を消してしまう方向に進めてしまいます。つまり本人に至ってはその記憶までも消してしまうべきと考える方向に陥ってしまう傾向があるわけです。

しかし実際に当人としては過去を単に「悪しきもの」と割り切れるものではないという考えもあります。

倫子はコンテンツモデレーターの仕事を通して、自身が削除した人の記憶、記録をノートに書き綴っていくわけですが、その行動には自身の「いじめ」に対する向き合い方と仕事における方向性との相違の中で、彼女が自身の進むべき道に向かってもがいている様子も感じられるわけです。

映画『見知らぬ人の痛み』

(C)MOON CINEMA PROJECT

この彼女の行動を周囲の人たちはどのように理解すべきなのか、彼女のこれからの人生に何が必要なのか。

倫子に対するこれらの印象は、傷ついた人たちが自分を取り戻し新たな道を歩むためのヒントにつながっていくようでもあります。

主演の大西礼芳が表現した繊細な表情の変化は、これら重要なポイントを巧みに表しているといえるでしょう。また倫子の夫・和也役を務めた小林リュージュがラストシーンで大西とともに見せる表情は、ほんのわずかな瞬間で見る側に深い印象を与え、物語の論点をいっそう強いものとしています。

合わせて二人を中心とした人物の描き方も非常によく練られた構図であることが感じられ、幅広い層に向けてこの課題に対する考えを想起させる作品であるといえるでしょう。

映画『見知らぬ人の痛み』は2024年4月19日より東京・テアトル新宿ほかにて公開

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